「マーケティングの極意」大ヒットを連続的に生み出すためには ポケトーク 松田憲幸CEO(第2話)

「言葉の壁をなくす」をミッションに掲げ、AI通訳機『POCKETALK』シリーズを販売するポケトーク株式会社。22年11月にはDIMENSIONを含め16億円の資金調達も実施し、世界的に躍進を続けている。同社代表取締役社長 兼 CEO松田憲幸(まつだのりゆき)氏に起業家の素養、事業成長の心得などについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話)

その1:お客様の立場から考える

ーー「特打」「セキュリティソフト ZERO」「ポケトーク」など数多くのヒット商品を継続的に生み出してこられました。商品開発で意識されているポイントを教えてください。

原則は「お客様の立場から考える」ことです。

世の中には「良い製品なのに売れていない」ものが多くありますが、そのほとんどがお客様から見れば「知らないだけ」なんですよね。

例えばウイルス対策ソフトの「セキュリティソフト ZERO」は、今でこそ品質の高いものですが、売りだした当初は正直言って品質が良くなかったのです。製品として一番重要なウイルス検知率で業界最低クラスでした。

それでもシェアNo.1になりました。自慢することか、という話ですが(笑)。

要はお客様に知ってもらうためのマーケティングの力がいかに大きいか、ということなのです。

 

ーー「お客様の立場から考える」ために大切にされていることがあればお聞かせください。

「店頭に立ってお客様の声を聞く」ことが私の会社の原点です。

店頭に立ち自分で製品を売って、駄目だったらお客様から言われたことを直して、また新しい製品を持っていく。そして「これはいける」と思える商品になった瞬間に、一気にマーケティングにアクセルを踏む。

ポケトークのときも私が店頭に立ち「これはどう見てもいける」と感じ、家電量販店の店長も「これはいける」と確信してくださったタイミングで、一気に広めていきました。

逆に言うと、お客様や、周りの量販店の方の反応が良くなるまでは、とことんお客様と向き合い続けます。

周りから「ヒット製品をたくさん出されていますね」と成功談ばかり言われますが、その裏には大量に死んでいった製品たちがありますので(笑)。

死ぬほど打席に立ち、お客様の立場で製品と向き合い続けることに尽きると思います。

 

ーー今でも店頭に立たれているのですか?

はい。本物のお金を持って、本気で買うか買わないかを議論しているお客様の意見にはバイアスがかかっていませんから。

景品が貰えるアンケートや、私がパーティーで会った人に「うちの製品どうですか?」と聞いても「いや、最悪ですよ社長」と言う人はいないですよね(笑)。

でも、もし私が店頭に立つ単なるおじさんだったら、本当にボロクソに言われます。そして、それがよいのです。

お客様に商品を売るならば、お客様の気持ちが分からないといけない。それは製品を買ったお客様だけでなく、買わなかった潜在顧客の気持ちも聞かないといけない。

結果的に、店頭に立つのが一番早いのです。

 

その2:勝負所を見極めてから、大胆に

ーー非常に大胆なマーケティングをされている印象です。何か心がけていることはありますか?

何も考えずに大胆にやっているわけではなく、数学的に見て得られる期待値が、マーケティングに使うお金よりも高いと確信できたときにのみ大胆に投資している感覚です。

例えば「特打」。3年間の利益をつぎ込んだとも言われるほどマーケティング費用を投下しましたが、実は「特打」の中にはパンフレットが入っていて、そこに掲載してある他サービスとの併売効果も含めれば、今の言葉でいうLTVがマーケティング費を圧倒的に上回る見込みがありました。

「ポケトーク」も同じです。

イメージタレントに明石家さんまさんを起用することはもちろん安くはありませんが、後々トータルでかかる電波代などを含めたマーケティング費用の総額に比べれば、その割合は小さなもの。それに対して、得られるメリットは非常に大きいものです。

一つ一つの費用項目を見て高いか安いかを考えるのではなく、事業をトータルで見てマーケティング効果を捉えることが大切ですし、意外とみなさんができていないポイントかもしれません。

 

ーー確信をどのようにして得ることができるのでしょうか?

これもいきなり得られるものではなく、少し打ってお客様の反応を見てから、「これはいける」と確信する流れです。

「特打」は1997年6月に発売していますが、あのCMを打ち始めたのは1999年。2年もかかっています。ポケトークも2017年の12月に発売し、明石家さんまさんを起用したのは次世代機が発売された2018年の9月から。

一般的に見るといきなり大投資しているように見えても、実はそういった前段階を経て判断しています。

具体的に見ているのは非常にシンプルで、売上推移と粗利金額。

例えば5000万円の粗利を月額で稼いでる商品があったとして、ここにマーケティングを1億円投下すれば、粗利が月額で1000万円増えるとします。そうであれば、10ヶ月で投資を回収できると簡単に計算できますよね。

この前段階が無い中でいきなりCMなどを打ってしまうと計算ができないですし、CMがあったケースと無いケースの比較もできません。

なので「とりあえず認知を広めたいからCM!」という戦略はおすすめしませんし、私たちの戦略とは全く異なるものです。

 

その3:クリエイティブは妥協しない

ーーCM制作について、何かクリエイティブの設計などでポイントはありますでしょうか。

CMはクリエイティブが全てです。そこが失敗したら全ての意味がなくなってしまう。

なのに、ここをケチってしまう会社が多いんです。先ほどのCMに起用するタレントの議論と同じで、クリエイティブ費って結構コストが上下するからケチりやすいんですよね。でもCMの場合、実際には以降の電波代の方が遥かに金額割合は大きいです。

その費用の足し算と、効果の掛け算は間違えないようにしないといけません。

 

CMのクリエイティブって、もちろん製品の売れ行きにも関わるのですが、その会社の印象をも決めてしまいますよね。

経営者としては、もちろん製品もすごく重要ですが、その製品を作って売る「人」が何より一番重要です。つまり、いい人を採用することが、経営において最も重要なことだと思うのですが、採用においてもCMのクリエイティブの影響って凄く大きいのです。

 

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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