企業内ベンチャーからカーブアウトし大型資金調達。濵野智成CEOが語るNOVARCA誕生の舞台裏(第3話)

カーブアウトに至るまでの道のり

ーー昨今、比較的若い大企業を中心に社内起業が増えています。御社の越境ビジネスも元々ホットリンクの一つの事業として立ち上がり、カーブアウトされました。その際、親会社であるホットリンクや投資家と、どのように交渉を進めていかれましたでしょうか。

事業を立ち上げたのは2015年で初期カーブアウトが2017年、そして昨年(2022年)の33億円の調達のタイミングで完全にその連結から外れた、という意味で大きく二段階のカーブアウトがありました。

まず最初のカーブアウトは、まさしく私が自分の全財産をつぎ込んでこのNOVARCAの会社に対して資本を注入し、当時親会社だったホットリンクと二者の株主で始めるという、ある種のJVの状態です。

この事業にものすごいチャンスがあると思っていた一方、今投資をしないと恐らくナンバーワンになれないという直感があったので、やるんだったら本気で外部資本も入れながら全力投資したほうがいいと決断しました。

そのため最初から第三者株主を入れる予定で会社設立前から投資家周りをしていたのですが、当時私は親会社のCOOと兼任をしている状態。投資家からは「二足の草鞋は履かないでくれ」と言われたんです。

結果的に、最初の投資家であるDNX Venturesの倉林さんが、ホットリンクから私が完全移籍して100%コミットするという条件で、投資をしてくださりました。これが最初のカーブアウトです。

 

次に、二段階目のカーブアウトを決断した背景は、2つあります。

1つ目は、親会社のベネフィットと投資家のベネフィットの統一。これがすごく難しいということです。

例えば赤字を掘ってでも思い切り投資をしたいと思っても、上場企業の連結子会社でそれをしてしまうと株価に影響を与えてしまいます。なので投資したくてもやりきれない、というトレードオフが構造上生まれていました。

2つ目は情報開示。

我々はダントツNo.1を目指すために、情報開示を避けて競合からの模倣リスクを下げながら突き抜けていきたいと考えていました。しかし上場企業の連結子会社はIRをしなければいけません。

ここでも我々の会社としてのベネフィットと、上場会社である親会社のベネフィットが対立構造になってしまう。

創業期には、親会社と一緒に事業を推進することが可能で、それが良い方法でもあります。しかしながら、一定の成長を遂げると、必ずと言っていいほど親会社とのベネフィットのバランスを保つ問題が浮上します。

そして、2022年にカーブアウト、完全な独立に至りました。

 

ペイフォワードこそが経営・人生の本質

ーー特に2段階目のカーブアウトは交渉も難しかったのでは無いでしょうか?

そうですね、カーブアウトのスキームも色々と検討はしました。

最終的な判断軸としては、関わってくれた人やその先にいる家族まで幸せになってもらいたい、「濵野さんに関わったから幸せになれた」と言ってもらいたいということ。「裏切られた」とか「不幸になった」みたいな想いをさせる人間にはなりたくありませんでした。

そんな中でどういうスキームがあるだろうと考えた時に、NOVARCAの社員や株主はもちろんですが、親会社(ホットリンク)のステークホルダーにとってもWinを作ることだと思ったんです。

当時でいうと売上の50~60%くらいをNOVARCAが占めていて重要子会社でしたので、それを上場会社である親会社の株主に対して説得性のあるストーリーを構築するということが肝でした。

ホットリンクとしては今後Web3の開発、投資を大きな戦略として掲げていたので、我々の株式をうまく活用してキャピタルゲインを生み、そちらに投資をするという親会社にとってのエクイティストーリーを考えました。

しかも全額売却してしまうのではなく、一部シェアを残して我々が大きくスケールした後のキャピタルゲインも得るチャンスを残す。

そうして親会社のWinも含めて整理し、連結から外れることができれば、市場と事業成長に対してより一層集中できるので、我々の投資家もWinになり、最終的に私たちもWinになる。三方良しの構造を作り出すことを大切にしました。

親会社にこのディールを持ちかけた時も、社外取締役含めて一人ずつと1on1で飲みに行ったり話す時間を設け、私のパッションやミッション、コンフリクトになってる部分やお返ししたいベネフィットも全て話しました。結果的に応援してもらえるコミュニケーションができたかなと思います。

私は経営者の素養として「真摯さ」を挙げましたが、この人を応援して良かった、この人と付き合っていてよかった、と思ってもらうことは、結果として自分に返ってくるかもしれないと信じています。

社員や投資家、親会社、そのさきの家族。いろんなステークホルダーがいると思います。その全員にとってのWinをどう考え、こだわれるか。

この「ペイフォワードの循環」こそがビジネスの本質、もしくは人生の本質なんじゃないかなと思っています。

 

 

 

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古家 広大

古家 広大

早稲田大学卒業後、三井住友信託銀行に入行。 広島にて個人向けFP業務を行った後、大阪にて法人RMを経験。非上場からプライム市場の企業まで担当し、融資や不動産など信託銀行の幅広いソリューション営業に従事。また、ESGやSDGsをはじめ、CGC改訂への対応支援も行い、グローバルで勝ち続ける企業への成長を非財務領域も含めてサポート。 2022年DIMENSIONに参画。LP出資者からの資金調達と国内スタートアップへの出資・上場に向けた経営支援を担う。

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