スタートアップ――起業の実践論 第2回 70名の起業家の実体験から紐解く、課題発見の実践例 後編

はじめに

こんにちは。DIMENSIONファンドの伊藤紀行です。

第1回の最後では、課題発見のよくあるパターンについてみてきました。
70名超の起業家の事例を調べていくと、多種多様な方法で課題を発見し起業へと結びつけていることがわかります。

その中でもよくあるパターンとして、

1自分自身が感じた課題を元に、起業する
2得意領域の課題で、起業する
3海外の事例を研究、日本にはまだ解決策のない課題で、起業する

などがあります。現実にはこれらの組み合わせであるケースが多かったり、そのほかにもパターンがあったりしますが、まずはこのような汎用的なパターンを、前回と今回で紹介するケーススタディも参考にしながら押さえていきましょう!

また、本コラムの内容は’23年4月発売の「スタートアップ――起業の実践論」をベースに記述されています。全体版は、同書をご参照ください!

 

‘23年4月発売 「スタートアップ――起業の実践論」

 

アナロジー思考で、事業のアイデアを創出する

事象を応用・組み合わせるアナロジー思考は、元榮さんの弁護士ドットコムのアイデア創出に最も大きく貢献した思考といえるかもしれない。これは特定の課題や解決策が他の領域でも応用できないかと考えることです。
弁護士ドットコムの場合、引越し業者の比較を弁護士の比較に応用できないかと考えたことが発端になっています。この思考は応用するアイデアの源が多ければ多いほど、アイデア創出に有効です。

海外事例でも、他業界の事例でも、日常の生活内で利用するものでもOKです。日頃からアナロジーの種を蓄積していくことで、より筋のいいアイデアを創出できる確率が高まります。主観的な事象をマクロ視点で捉え直せる俯瞰思考は意外に見落としがちだが、最も重要な視点と言っても過言ではありません。これは、自分が主観的に捉えた課題が世の中全体としても意味があるのか、問うことでもあります。課題が自分に固有すぎて、他者に関心がなければニーズもなく、市場もないケースが多々あります。

弁護士ドットコムは、主観的な事象をマクロの視点で非常に上手く捉えたケースなのではないでしょうか。
元榮さんが弁護士ドットコムのサービスを思いついたのは2000年代の半ば。当時はインターネットが勢いを増してきた時代だった。弁護士についてインターネットで検索をしながら、整理されていない情報の海に溺れ、さまよっている人がたくさんいた時代でした。
また弁護士側から見ても、インターネット広告が解禁された直後でした。当時、司法制度改革により弁護士数が急増する中、事務所同士の競争が激化するものの、インターネットマーケティングについて理解している弁護士は多くはありませんでした。

今でこそ相談系のプラットフォーム事業は複数ありますが、当時まだ日本にはそのようなサービスはありませんでした。そのタイミングで思いついたからこそ、元榮さんの事業は成長したともいえるのかもしれません。適切なタイミングで未解決の課題に気がつく、これが非常に大事なポイントといえるのではないでしょうか。

もう1つ、課題に気がついた後の動きも、重要になってきます。

 

思い立ったらスピード・スピード・スピード

自分が確信を持てる課題と事業アイデアを思い立ったら、後は誰よりも早く実行に移すことが、成功への近道になりうる。元榮さんの場合、異端ともいえるスピードで行動に移されていました。

「思い立ったが吉日ということで、インターネット分野未経験、経営もよくわからないままひとまず退職届を出しました。サービスを思いついた直後、突然の退職届に周囲は唖然としていましたね」

インターネット分野も経営もわからないまま、退職届を出した元榮さんは、まずは関連する書籍を何十冊も買い漁り、必要な知識を血肉化しながら実践を重ねていかれました。そこまで思い切りスピード重視で行動に移せた理由は、「弁護士をもっと身近にする」ことで間違いなく社会を変えることができると確信したからだそうです。

本ケースのメッセージは、自分が圧倒的に確信を持てる課題、そしてそれに伴う事業アイデアを見つけよう、ということです。そのために、日頃の中の自分自身の課題に着目してみるのはどうでしょうか。そしてその課題に対し、問いを立てる思考、アナロジー思考、俯瞰思考の視点で向き合おってみましょう。結果、確信を持てるアイデアを見つけたら、そこからはスピード・スピード・スピード!

 

アイデアをどんどん周りに話し、仲間を集める

同社はいかにしてビジョンを組み上げ、仲間づくりを実現したのでしょうか。創業当初を振り返り、元榮さんは以下のように語ってくれました。

「私は、常に『こういう人を求めている』と周りに言いふらすようにしています。創業当時も、『弁護士ドットコムとしてこういうことをやりたいんだ。こういう人を探している』とさまざまな所で話していました。独立して1か月後ぐらいに、大学のゼミの後輩の弁護士が『おもしろいですね。僕にもやらせてください。弁護士になったものの受験時代みたいな熱い想いがもてなくてどうしようかと思っていたんですよ』といってきてくれました」

情報を常に発信することで、その志に共感する人が声をかけてくれるようになっていた点は、特筆すべき点ではないでしょうか。その後の展開を元榮さんはこう回想されています。

「彼のルームメイトに大手企業のエンジニアがいて賛同してくれたり、その彼の大学のゼミの同期で某オークションサービスを立ち上げた立役者などもいたりして、多くの人がどんどん集まってくれました。2005年4月に居酒屋に集まって、情熱を込めたパワーポイントのスライドを見せながら、『こんな感じだけど、どう? やってみない?』と誘ったら、みんなが「やりたい!」と答えてくれたのです。こうして、起業して4か月ほどでオリジナルメンバーが揃いました」

ここで重要なのは、周りの仲間に熱量が伝わり、当事者として更にその仲間を引っ張っている点です。リーダーはフォロワーがいて初めて成立します。その意味で、周りの人がこのリーダーに賛同しよう、となることが最初の大きな一歩ではないでしょうか。更にここから、破竹の勢いで採用活動を仕掛けていくことになります。

「2013年7月に加わったCOO(最高執行責任者)やCFO(最高財務責任者)も同様です。COO、CFOを本格的に探し始めたのは2013年4月。上場準備の直前期に入り、そういえばCOOとCFOがいないなと気がつきました。そこで、4月にFacebook で『COO、CFO大募集!我こそはという人は来てください』と募集をかけました。そのときはすでに、弁護士ドットコムがたくさんのメディアで紹介されていたこともあって、多くの方からお問い合わせをいただきました。そして、募集をしてから3か月で入社してもらうことになったのです」

CxOの採用まで、このスピード感が実現できたのはやはり情報発信し続ける元榮さんの行動あってのことではないでしょうか。元榮さんは、採用においてビジョン、旗を立てることの重要性をこう語られています。

「一番大切なのは、どういう旗を立てるかだと思います。私は、『弁護士を身近にする!』という旗を立てました。みなさん弁護士を遠い存在で敷居が高いと思っています。それをもっと身近にしたら、必ず社会に役立ちますよね。借金で困っている人や養育費を払ってもらえないシングルマザー、相続トラブルを抱えている人など、生活をしていればいろいろトラブルはあるのに、弁護士を活用できていないんです。共感されやすい理念をしっかり立てて、それを広報も活用して訴え続けていけば自ずと引力が生まれ、人は集まってくると思います」

みんなが潜在的に困っている課題を解決するという旗を掲げ、それを熱心に発信していけば、仲間は自ずと集まってくる、そんな側面があるのではないでしょうか。

また、本コラムの内容は4/15発売の「スタートアップ――起業の実践論」をベースに記述されています。全体版は、同書をご参照ください!

 

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