「ガバメントクラウドに認定*された唯一の日本企業」 さくらインターネット株式会社 / 田中邦裕 社長が語る「起業家の素養」(第1話)

​​「やりたいこと」を「できる」に変える、というビジョンの実現に向けて「社員の成功とお客様の成功の実現」、「クラウドビジネスへの集中」をテーマに注力し、さまざまな取り組みを行っているさくらインターネット株式会社。同社代表取締役社長 田中邦裕氏に起業家の素養、ガバメントクラウド採択までの道のりなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの巻口賢司が聞いた。(全4話) *2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定

“たかが起業”。重要なのは人生に良い影響を与えるか

ーー田中社長にとって、起業家として重要な素養を3つ挙げるとすると何でしょうか。

1つ目は、「好奇心を持って取り組むこと」だと思います。

事業を長期間続けるには内発的な動機が必要で、自分が好きでやっているという感覚が重要であると考えています。

田中 邦裕/1978年生まれ
大阪府出身。国立舞鶴高等専門学校在学中の1996年にさくらインターネットを創業し、レンタルサーバー事業を立ち上げる。 卒業後、1999年にさくらインターネット株式会社を設立し、社長に就任。 2005年には東証マザーズ上場、2015年には東証一部へ市場変更。社長業の傍ら、スタートアップのメンタリングやエンジェル投資を行うほか、ソフトウェア協会(SAJ)会長や日本データセンター協会(JDCC)理事長などとして業界発展にも尽力している。

私は、エンジニアを目指し高等専門学校に通い、学生時代はロボットコンテストに参加していました。

その中で、ロボットを設計するためのコンピューターシステムとネットワークに非常に興味を持ちはじめました。

ウェブサーバーの登場で、インターネットが広がり、これまで人と人のコミュニケーションに時間とコストがかかっていたのが、世界中の人々が直接つながれるようになったのです。

高専生の頃に自分でサーバーを立ち上げ、それを遠隔地から閲覧できたときには、人生でも最高の感動を覚えました。

その時の感動と面白さが原体験となり、今でもサーバー関連のビジネスを内発的に好きで行っています。

2つ目は、「たかが起業である」ということです。

起業は人生を失ってでも取り組み続けなければならないほどのものではありません。

起業家は孤独と言われ、ストレスや担っている責任が大きいですし、会社を作ったとしても、必ずしもうまくいくわけではありません。

ただし、その過程で本当に辛いのであれば、逃げてしまってもいいんです。

重要なのは、起業したことが本人の人生に良い影響を与えるということです。ですから、社長が会社の犠牲になるようなことは避けるべきだと考えています。

3つ目は、「目標を掲げること」。

目標を設定したからと言って必ずしも達成できるわけではありませんが、目標がなければ達成の可能性すらありません。

例えば、上場を目指す人がいたとします。実際に上場できる人は一握りしかいませんが、そもそも目指さなければ、上場自体不可能ですよね。

私の会社でも、様々な目標を設定してきました。最近では、ガバメントクラウドへの認定を目指し、条件付きではありますが、昨年達成できました。

高い目標を設定することが、それに挑戦する機会を生み出します。達成したいことや、中長期的にどうなりたいかなど、高い目標を定めて、それにチャレンジすることが重要だと思います。

結果がどうであれ、社長経験は決してマイナスにはならない。

ーー田中社長は、高等専門学校の寮の中でサーバーのレンタル事業を始められましたよね。18歳という若さで学生起業を決意されたきっかけは何だったのでしょうか。

当時私が運営していたサーバーは学校内に置いていたのですが、その撤去を求められたことが起業のきっかけでした。

起業には、起業をすることが目的となるケースと、独立のために起業が手段となるケースと、二つの種類があると考えています。

私の場合は後者で、手段としての起業でした。当時、サーバー運営を続けたいという想いがあり、それに対して支払いをしてくれる人々が周囲に存在していたため、報酬を得ながら事業を続けることにしました。

最初は起業の方法やお金の受け取り方すら知らず、郵便で送金してもらっていたこともあり、現金書留で数十万円というお金が寮に送られてきました。寮の人たちは、私が何か悪いことをしているのではないかと思っていたかもしれません(笑)。

サーバーを購入するためにはお金が必要だったので、利用料を受け取り、サーバーを購入しました。その流れの中で、何となく起業しているような状態になり、1年少し経った頃に法人化する方法を学び、合資会社を設立しました。

つまり、周りの環境に応じて、手段としての起業を選択した、というわけです。

 

ーー法人設立までの経緯を詳しく教えて頂けますか。

当時、株式会社や有限会社の設立には大きな資本金が必要で、どうやって資本金を集めようか悩んでいました。

そんな時に、書店で、資本金が1円からでも可能な法人形態である“合資会社”について書かれた本を見つけ、この本を読み、法人化も良い選択肢かもしれないと思いました。

そして、その本の裏表紙にはスティーブ・ジョブズ氏の言葉が引用されていました。「一生に一回でも社長になったと言えるだけでいいじゃないか」という言葉です。

その言葉を見て、納得したのです。「今後、会社がずっと存続するかどうかは分からないけれど、一度でも社長を経験したということは決してマイナスにはならない」と考え、これが起業するきっかけの一つとなりました。

 

 

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巻口 賢司

巻口 賢司

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本マイクロソフトに法人営業として入社。国内の大手企業におけるデジタル化の促進に携わる。その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて、スタジオ部門での映画の配給・マーケティングからコーポレート戦略部での新規事業開発など、幅広い業務に従事。2023年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。日台ハーフ・日英バイリンガルというバックグラウンドを活かし、グローバルな目線でのスタートアップ支援を志す。

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