仕掛け人・澤田貴司が語る「大ヒットを生む会社」の作り方 ロッテベンチャーズ・ジャパン 澤田貴司代表(第2話)

2022年4月から新たにWell-being 分野などを対象に国内外のシードからミドルステージのベンチャー企業へ投資活動・事業支援を行うロッテベンチャーズ・ジャパン(株式会社ロッテホールディングスの100%出資CVC)が業務開始。ファーストリテイリング副社長、リヴァンプ創業、ファミリーマート社長など華々しい起業・事業経営実績を持つ澤田貴司氏が同社代表に就任し、話題を集めている。今回は澤田氏が考える起業家の素養、事業経営のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全3話)

ユニクロ「フリース」大ヒットの本質

ーーこれまでファーストリテイリングやファミリーマートなど、巨大組織を経営されてきました。大きな組織を束ねる上で、人材育成やビジョン浸透について大切にされていることをお聞かせください。

組織というのは規模の大小変わらず、99.99%リーダー次第だと私は思っています。

リーダーシップのあり方・方法論は人それぞれですが、共通して言えるのは組織として最も大切なことは「進むべきゴールが明確な事業計画を作り、全社員と共有し、全社で実行・モニタリングし、前進する」こと。これ以上大切なものはありません。

「事業計画」というのは組織にとっての羅針盤。この大きな方向性を示すのは経営者の一番重要な仕事です。ファミリーマートの社長時代も「たとえば今期はこの3本柱をやるぞ」という根幹の部分を示すことは私が策定していました。

次にその方針を踏まえて各部署が事業計画を作る。この事業計画を何度も各本部と経営とで議論し最終的な事業計画書に落とし込みます。

さらに「この計画を全社員に」伝えること。伝え方は人や組織それぞれだと思いますが、あらゆる手段を使って全社員がこの計画を確認できるようにすることが極めて必要です。

そこから「全社員で」実行・モニタリングしていくこと。詳細の運営方法は各部署に任せたら良いと思いますが、経営者としては「全社員で」実行・モニタリングをしっかりと出来る仕組みが作れるかが重要だと思います。

ーー「全社に」「全社で」ということはシンプルに見えて、組織規模が大きくなるほど難易度が高くなりそうです。

例えば最近は様々なマーケティング手法をいろんな人から語られていますが、私はマーケティングの本質は昔から変わっていないように思っています。

それは計画を作り、計画を全社に浸透させ、全社を挙げて実行し、成功したり失敗したりする。それを全社で反省し、修正し、次に繋げていく。このサイクルがマーケティング活動の本質だと思います。

これを実現する上で「お客様にとってのわかりやすさ」を私はすごく大切にしてきました。ある種、確信犯的に、その会社の「社員は良いと思っているけど、マーケットに残念ながら知られていない」商品をピックアップし、そこに全社の力を投下するということを繰り返してきたように思います。

例えばユニクロのフリース。

ご存知の通り爆発的に売れた商品となりましたが、正直あの結果は野球でいうとたまたまバッターボックスでバットを振ったら大ホームランになったものでした。

私の思いつきで柳井さんのご了解を頂きキャンペーンを実施したのですが、結果として一大ブームとなりました!あのキャンペーンは申し上げている本質から出来たキャンペーンではありません。ただあのキャンペーンから学んだマーケティングの本質はものすごくありました。

本質は「これを売ろうぜ」と全社員が思えるプロダクトを定め、全社一丸となって売っていくこと。全社を挙げて実行できれば、売り場も変わりますし、顧客にも伝わっていきます。そしてその結果、売上が上がれば社員もモチベートされるという良いサイクルが回っていきます。

もちろん顧客が求める商品であることが前提ではありますが、一番重要なのは社員全員が本気で取り組むという状況を作り出すこと。マーケティングは一人のカリスマが作っているように昨今メディアは取り上げているように思いますが、そうではないでしょう。マーケティング手法が多様化した現在も、この本質は変わらないのではないでしょうか。

但し、この全社活動を円滑に進めるためにリーダーシップを発揮する方の存在も極めて重要だと思います。

 

守りも攻めも「全社一丸」

ーーマーケティングといった攻めが得意な一方で、守りに課題を抱えている経営者も多いと思います。そのバランスについてはいかがでしょうか?

私はすぐに調子にのって色々やってしまう人間で、ゆえにたくさん失敗もしてきました。おっしゃる通り「守り」は本当に大切だと思います。

例えばクリスピー・クリーム・ドーナツ。爆発的に売れました。ピークでは1店舗だけで年間20億円売ってしまうような規模感でした。調子にのっちゃいますよね(笑)

次はここだ、あそこだと出店拡大したわけですが、特に食べ物というのはブームが冷めると市場が引くのもすごく早い。結果的に大量閉店を余儀なくされました。

なので、冒頭の起業家の素養として「費用対効果」を挙げさせていただいたのはそういった理由です。どんなに調子が良い時でも、経営者は極めて冷徹に刻々と変化する状況を見る一面を持つことが重要です。

大事なのは事業を冷徹に見極め、今は攻め、今は守りという判断をすること。そしてそれをひとりでも多くの社員と理解し合い、全社一丸となって事業経営していくこと。

例えば私がファミリーマートで社長をやっていた頃の例を挙げると、沖縄にファミマは300店舗以上出店していたのですが、当時0店舗だったセブンイレブンが出店攻勢をしてきた時がありました。

この状況は間違いなくセブンが「攻め」でファミマは「守り」ですよね。

沖縄ファミリーマートの店舗のオーナーさんやエリアFCのパートナー企業であるリウボウの皆さんは、とにかく今のファミリーマートにご来店いただいているお客さんに対するサービスの質を徹底的に高めよう、そして例え一時的に既存のお客様が店舗から離反されてもまた店に帰って来ていただけるよう、現場で様々な意見を出し合って大事なお客様を中心とした施策を実行されていました。セブン進出当初はかなり苦戦しましたが現在はお客様が戻り極めて健全な店舗運営をされていると理解しています。

攻め方や守り方は状況によって全く違うので一概には言えませんが、大事なのは「全社一丸」。全員が躊躇なく意見を出し合い、一枚岩となって良い会社にしていく。これが最も大切であると考えます。

 

規模よりも質、変化適応が求められる時代

ーースタートアップが規模化していくと、いずれ既存の業界トッププレーヤーと戦う必要があります。ファミリーマートとセブンイレブンといった業界トップの争いで意識されていたことはありますでしょうか?

たしかに経営目線でいうとファミリーマートはセブンイレブンなどと業界シェア争いをしているわけですが、それは局地戦が積み重なった結果です。

なので、私は「セブンイレブンを規模で追い越そう」などという考えは持っていませんでした。毎日少しでもいいからお客様にとって昨日よりも良い今日を、という積み上げが重要だと考えていました。その結果として、規模が拡大し店舗数でセブンを上回ることが重要だと考えました。お金を出せば店舗は出せます。但し質の伴わないお店は早晩破綻して行くのです。とにかく質のレベルアップこそが最優先事項と繰り返し全社に徹底しました。

例えば、幹線道路の向かい合わせでファミリーマートとセブンイレブンがあったとしましょう。片方の車線で道路工事が入ったとすると、その側の店舗はダメージを受け、逆に逆車線側の店舗は恩恵を受けます。こんなの加盟店さんの実力でもなんでもありませんよね。環境が変わってしまったのです。

但し、加盟店と本部が一緒になり、始まる工事に合わせて人員や駐車場を増強したり、撤退・出店対策などをしていくことも極めて重要です。

現場ではそんなことが全国の店舗で日常茶飯事的に起きている。そのように日々刻々と変化することを敏感に読み取りいかに改善していくか。その積み上げが結果として会社の規模につながっていくのだと思います。右肩上がりで成長してきた時代はとっくに終わっています。今こそ、現場ニーズに合わせたきめ細かな対応が重要だと思います。

ーー規模よりも質を重視されているのが印象的です。

特にリアル店舗・流通ビジネスにおいては、規模を追いかけたプレーヤーはことごとく苦境に立たされているように思います。例えば百貨店市場は昔10兆円規模あったものが、今では5兆円以下。統廃合を繰り返し、売上は縮小の一途です。スーパー業界も一部で同様のことが起こっているように感じます。

コンビニ業界でもいまだに「店舗数」が業界シェアの指標としてよく用いられます。当然店舗数も重要です。但し店舗数だけがあたかもこの業界の重要指標というのは意味をなさないと思っています。

そう考える背景には、昨今の時代変化の速さがあります。店舗出店に大きな投資をすれば図体は大きくはなれます。出店も重要施策のひとつですが、色々な環境変化が起こっている今日の流通市場においてこの施策だけでは当然時代の変化にはついていけません。10年ほど前のコンビニ全盛期の右肩上がり時代は規模を追うことが最重要施策だったのは間違いありません。今重要なのは時代変化にいかに正しく適応し続けるかにあると私は考えました。

例えば百貨店のような巨大店舗であれば建設で何百億円も投資が必要ですし、地上げだけでも数年かかったりします。ビルができた頃には時代が変わってしまいます。

そういった意味では丸井グループの青井浩社長は素晴らしい経営者だと私は尊敬しています。小売業の変化を誰よりも早く察知して、不動産やファイナンス業にビジネスの軸足をいち早くシフトしていきました。その経営を株式市場は極めて高く評価しているように思います。

リアル店舗・流通業界は特に規模よりもお客様にとっての質が問われる時代。

既存の商品開発や店舗数のシェア争いも重要ですが、違った観点で自社を見直し、たとえばEC、バーチャルとの融合や広告ビジネス、金融ビジネスなどの実行という異なった分野に積極的に投資し、違った質の戦いをしていかなければならない時代になっているのだと強く思います。

 

 

 

>次のページ「澤田貴司代表が率いるロッテベンチャーズ・ジャパン が描く、スタートアップ・大企業連携の未来(第3話)

>前のページ「数多の名経営者に共通する「起業家の素養」とは ロッテベンチャーズ・ジャパン 澤田貴司代表(第1話)

>ロッテベンチャーズ・ジャパンの投資方針はこちら

>ロッテベンチャーズ・ジャパンの公式HPはこちら

>>DIMENSION NOTEのLINETwitter  始めました。定期購読されたい方はぜひご登録ください。

 

著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

Others 関連記事

DIMENSION NOTEについてのご意見・ご感想や
資金調達等のご相談がありましたらこちらからご連絡ください

E-MAIL MAGAZINE 起業家の皆様のお役に立つ情報を定期配信中、ぜひご登録ください!*は必須項目です。

This site is protected by reCAPTCHA
and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.