#起業家の素養
卒業生9000人超、満足度98%を誇り、プログラミング教育の市場を牽引するテクノロジースクール「TECH::CAMP」。同サービスを提供する株式会社divの代表取締役・真子就有氏は、成長ベンチャー・じげん社の内定者アルバイト時代に起業を決意。その後、世に出したサービスの2度にわたる事業撤退を乗り越え、今のサービスにたどり着いた波瀾万丈な経歴の持ち主。今回は真子氏に、起業家として重要な素養や、テクノロジースクールの未来などを聞いた。(全5回)
一冊の本が人生観を変えた
——株式会社じげんの内定者時代に起業を決意されてからTECH::CAMP事業を軌道に乗せるまでの間に、何度も失敗を乗り越えてこられたと伺っています。そのあたりの経緯についてお話を聞かせていただきたいのですが、元々起業を考えていらっしゃったのでしょうか?
元々ぼんやりとは考えていましたが、じげんの代表取締役社長である平尾丈さんと出会い、その圧倒的なカリスマ性に憧れて、起業するよりこちらの方が自己実現の近道だと思い、会社に入ることを決めました。
しかし、インターンをしていく中で、「自分はいわゆる普通の仕事は得意ではないな」と思いました。自分で工夫をして新しいことを創り出していくのは得意なのですが、あらかじめ定められた枠組みの中で成果を出していくのはとても難しいと感じました。周りから見たら言い訳にしか聞こえないでしょうし、事実そうなのですが、自分の中では違和感が芽生えていました。「決められたことを正確にやる」というのが苦手なタイプなのだと思います。
加えて、その頃、岡本太郎著の『自分の中に毒を持て』を読んで、人生の価値観が大きく変わったということも起業のきっかけになりました。当時持っていた価値観として、起業家にも「偏差値」のようなものがあり、平尾さんのような偏差値が非常に高い人の近くで教えてもらえれば、自分の「偏差値」を早く引き上げられると考えていました。しかし、この本を読んで「偏差値なんて無い」と価値観が180度変わりました。
——その本が価値観を変えるきっかけになったのですね。
人生観のパラダイムシフトが起こったと言いますか、「偏差値を70、80まで上げたからといって何なんだ?自分のやりたいことをやり切らなければ人生を豊かにはできない」と考えるようになりました。本を読んだ次の日には退職願の長文メールを出し、起業へと方向転換をしていました。
私は今、自分の会社を必死で経営していますが、結果も人の感情もコントロールはできない。一寸先さえ分からない。それでも、その時々で真剣に考え、やりたいことをやり抜いています。他人との比較ではなく、自分と向き合うようになり、どんな結果であろうと受け止めて誇りに思えるようになりました。
2度のサービス撤退を経て掴んだ成功の「フレームワーク」
——起業後、いくつかの失敗を経験されたとお聞きしています。
起業をして最初に作ったのは「log」というエンタメ記録サービスです。映画や音楽など、好きなものをユーザーが投稿し記録するというシステムです。
ちょうどその頃、Facebookが普及し、個人の人間関係がネット上で可視化できるようになりました。「それを越えるには次に何を可視化すればいいだろう?」と考えた時、「人の興味関心」ではないかという結論に至りました。
そこで、人の興味関心の中でも最も共有意欲の高いエンタメを全部記録でき、コミュニケーションをとれるサービスを作ろうと考えました。「人の興味関心」を一目見ればわかるような、そういう場所を作れたらFacebookを越えられると思いました。
——今振り返ると、失敗の要因はどこにあったのでしょうか?
記録ツールとしては成立しており、1週間で1,000投稿していただける方もいましたが、コミュニケーションのサービスとしては機能していませんでした。ツールになってしまうとメディアとしての価値がなく、結果、誰も継続して使おうと思わなくなります。
コミュニケーションが生まれなかった理由は、リリースしてから気づいたのですが、「人はそもそも自分の興味関心を、赤の他人に話したいとは思っていない」ということです。サービス立ち上げ時の私の中の仮説は、「興味関心が合えば赤の他人でもいきなり友達になれて、コミュニケーションが生まれる」というものでした。しかし、現実には、人はまず友人や同僚といった関係になってから、お互いの趣味を共有して盛り上がっていきます。その順番を履き違えていたため、コミュニケーションが生まれなかったのです。
——その後にも別のサービスを提供されていますね。
「Class」です。オンライン上でランダムに選ばれた同い年の男女10人が1ヶ月限定で同じクラスになり、交流をするというSNSです。
「log」の失敗の後、当時の共同創業者と六本木のカフェで「次の事業は、誰かの問題を解決するものにしよう」という話になり、「自分たちの問題って何だろう?」と考えた結果、「友達がいないことじゃない?」ということで意見が一致しました。(笑)
では、今までどうやって友達を作ってきたかと考えてみると、中高生時代はたまたま同じクラスだったからという理由で友達が出来ていたことを思い出しました。その体験から、「同い年だから今日から仲良くしてください」という状況に置かれだけで友達になれるという仮説を持ちました。その偶然の出会いをオンライン上でやれたらいいのでは、というアイデアから「Class」が生まれました。
——「友達ができない」という問題を解決するサービスを作ったわけですね。
そうですね。しかし、このサービスも登録していただけるユーザーは多くいましたが、チャットが開始しても誰も喋りませんでした。話そうと努力してもらうために「3日間話さないと『転校』になります」というルールを設けましたが、3日後には10人いたクラスが1人になることもありました。(笑)
——この失敗要因はどこにあったのでしょうか?
「Class」が上手くいかなかった理由としては2つあったと思っています。
1つは「中高生時代の記憶と現実が乖離していた」ことです。多くの人にとって中高生の時にクラスで過ごした時間は「楽しかったな」という良い思い出だと思うのですが、実際に高校生の頃にタイムスリップしたとしたらどうでしょうか。年を取って振り返るからこそ楽しい訳で、その当時は最高だなんて感じていなかったように思います。それがネット上で起こってしまい、中高生時代の美しい記憶のおかげで初期ユーザーは数万人も集まりましたが、いざ中高生時代と同じ状況に置かれてみると意外に面白くありませんでした。
もう1つの理由として、「オンラインなのでいつでも辞められる」ことだと思います。現実の教室とは異なり、誰かと話す努力をしなくても良い。オンラインとリアルな教室とでは、提供できる場の価値が全然違っていました。
——ビジョンでは面白いサービスが、実際にやってみるとあまり面白くなかったということでしょうか?
その通りです。ビジョンありき過ぎて、結局、これも誰かの問題にしっかりフォーカスが当たっていませんでした。プロダクトアウトが強過ぎた、とも言い換えられます。世間でよく言われている、「この問題を解決してくれるなら絶対お金を払います」というサービス以外やってはいけない、ということをこれらの失敗を通じて身をもって体験しました。
——その失敗が現在のTECH::CAMP事業につながっているんでしょうか?
そうです。プログラミングの勉強を独学で始めたけれど、あまりの大変さに挫折してしまう、というリアルな問題を抱えた人をたくさん知っていました。そんな問題を抱えた人たちに、「1ヶ月でプログラミングが必ずできるようになるサービス」を出したら、10万円でも絶対支払っていただけるという確信がありました。そのような明確なニーズをイメージできるサービスであったからこそ、事業が上手く立ち上がったのだと思います。
これらの経験を経て、事業を作る際に守るべきフレームワークが私の中で出来ました。それは、「自分の得意分野をやること」「これから伸びる市場に手をつけること」「対価が明確であること」の3つです。
TECH::CAMPはその実体験から生まれたフレームワークをすべて満たしています。私自身、プログラミングは得意でしたし、プログラミング教育の需要は高まる一方です。また、サービスに対していただく対価も明確です。
様々な失敗を乗り越えてきたからこそ、今の事業・会社に繋がっていると思います。
>第3話「100人以上に急拡大する組織をまとめる方法とは」に続く
>第1話「「根拠のない自信」が全てを解決する」に戻る
>div公式HPはこちら
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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