#採用
多種大量なデータを即時に収集・分析するクラウドベースのデータ管理基盤を構築し、300社以上のデータマネジメントをサポートしてきたトレジャーデータ。同社を2011年にシリコンバレーで創業した元CEO 芳川裕誠氏に、アメリカと日本のスタートアップの違い、SaaSビジネスの成功法などについて聞いた。
競争優位性を生んだ「オープンソース2.0」構想
ーー創業初期はどのように事業アイディアを考えていかれたのでしょうか?
創業メンバーの私と太田、古橋は元々オープンソースのソフトウェアに携わっていたバックグラウンドがあります。なので「オープンソースを活用して新しいビジネスモデルを構築しよう」というコンセプトが発端でした。
目をつけたのは「ビッグデータ分析」。創業当時はビッグデータ分析を行う企業がいくつか出始めた頃でしたが、それをビジネス価値に変換できる企業というのはほとんどありませんでした。
そこで、その難しい部分を簡便化し、簡単にビジネス改善につながるビッグデータ分析が実現できるSaaS型のクラウドサービスを提供しよう、というのが最初のアイディアでした。
そこから古橋が起業直前に創業メンバーとして加わり、良質な「データ収集基盤」も合わせて提供しようという戦略が加わります。データ分析をするためには当然ながらデータを集める必要があるのですが、世の中には信頼できるデータ収集基盤があまりなかったのです。従ってその部分も良質なオープンソースソフトウェアとして提供しようということになりました。
オープンソースのデータ収集基盤で広くユーザーを集め、その何%かに「データ分析クラウドサービス」を使ってもらうという算段が当初の戦略でした。結果的に、このビジネスモデルがトレジャーデータの差別化要因になりました。
ーーもう少しそのビジネスの差別化要因についてお聞かせください。
端的に言うと「オープンソース+SaaS」のビジネスモデルです。
古橋が開発したオープンソースのデータ収集ソフトウェア「Fluentd」は、いまやMicrosoftも導入しているほど、データ収集ソフトとして業界標準となっているソフトウェアです。
オープンソースなのでこの「Fluentd」自体からはマネタイズしませんが、ここにSaaS型のデータ分析クラウドサービスを組み合わせることができれば、「Fluentd」が優良な顧客開拓ツールとなります。
技術的にも「Fluentd」のユーザーは、トレジャーデータのクラウドサービスが使いやすいような設計にしています。
一般的にオープンソースソフトウェアを提供する会社は、そのソフトウェア自体をマネタイズしようとしていたのに対し、私たちは別のSaaS型クラウドサービスを成長させるための潜在顧客リード生成ツールとして捉えた。
この「オープンソース2.0」とも言えるビジネスモデルが私たちの初期的な競争優位性でした。
オープンソースのカルチャーとビジネスを両立
ーー「オープンソース」のバックグラウンドを持った創業メンバーが集まったからこそ、「オープンソース2.0」の発想につながったのですね。
オープンソースには原理主義的なところがあって、みんな「オープンソースのカルチャーが好き」だったというのはあります。
ただし、オープンソースのサービスで上場し、さらにその後も成長を続けて大成功した会社は世界を見渡しても私が以前所属していたレッドハットくらいです。上場までたどり着いても、その後のエンタープライズ市場で苦戦を強いられたりしています。要は単独では成立しづらいビジネスモデル的なのです。
私たちはオープンソースが好きでありながも、妄信的に信じるのではなく冷静にビジネスモデルを構築し、オープンソースのカルチャーとビジネスが両立できる解を模索しました。
ーー「営業ドリブンの会社にする」と創業時に決められたことに通ずる部分を感じます。
創業メンバー3人のバランスが良かったのだとつくづく思います。
私はひたすら営業とファイナンス、経営全般を担当しながら、CTOの太田とビジネスモデルを一緒に考えていました。
私は太田のことを「スーパーセールスエンジニア」だと思っているほど、彼はお客さんを回るのが好きです。エンジニアでありながらも、実際の顧客需要をドライバーにしたプロダクト管理の視点を持ち続ける彼がいたからこそ、「営業ドリブン」の会社にできました。
そして「Fluentd」を開発した古橋は、ひたすらコードを書いているような生粋のエンジニア。しかも世界のデファクトスタンダードになるようなソフトウェアを作れる、超トップクラスのエンジニアです。
アイディアや理想だけでなく、ビジネスとして実践できるメンバーが初期から集まっていたことが、ゼロイチ立ち上げの成功につながったと思っています。
「ゼロイチ」フェーズで確認すべき3ケ条
ーー次に、事業拡大フェーズにおいて大切にされていることをお教えください。
どんなスーパー営業マンでも、ゼロをイチにすることはできません。このフェーズを推進するのはあくまで創業メンバーの役割です。創業メンバーが売れない製品は、どの営業マンにも売れません。
この「ゼロイチ」を作る際にチェックすべき項目は3つです。作ったプロダクトが「お金を払ってくれる顧客がいるか」、「リピータブルか(継続性があるか)」、「経済合理性が成り立つか」の3点。
この3点をしっかり確認するのが「ゼロイチ」フェーズで、これさえ確認できればどんなプロダクトでもスケールさせることができます。
ーー「ゼロイチ」作りは創業メンバーの役割で、その後のグロースはチームの役割ということでしょうか。
グロースのためのチーム作りの前提として、「どんな顧客に、どんなパッケージで、どのように説明すると買ってくれるか」という、営業の「Playbook」と呼ばれる必勝マニュアルみたいなものを作る必要があります。先ほどの3点が確認できればそれが作れるようになります。
私たちも実績が何もない初期の頃はこれまで培ってきたご縁、いわゆる「Friends & Family」をベースに顧客開拓しました。そこから全く縁のなかった新規顧客の獲得に成功して、先ほど言った「Playbook」を作りました。
もちろんグロースさせる中でも細かいチューニングは発生しますが、根幹となる「ゼロイチ」のバリューがしっかりしていれば、「Playbook」をもとに営業リーダー・営業チーム主導で事業はグロースしていきます。
なので、「顧客がお金を払ってくれる人がいるか」、「リピータブルか(継続性があるか)」、「経済合理性が成り立つか」を「ゼロイチ」フェーズに確認すること。この見極めがその後の事業グロースも左右すると思います。
※本記事は配信日現在の内容です
>第5話「日米の差から見る、SaaS型ビジネス成功の要諦」に続く
>第3話「シリコンバレーで創業&資金調達、成功の舞台裏」に戻る
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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