#人事・組織
「すべての人が子育てを楽しいと思える社会」をビジョンに掲げ、日本初(2009年BABY JOB調べ)の保育施設向け紙おむつの使い放題サブスク『手ぶら登園』を展開するBABY JOB。導入施設は2,000ヶ所を超え、新しい市場をリーディングカンパニーとして開拓し続けている。そんな同社の代表取締役社長 上野公嗣(うえのこうじ)氏に起業家として重要な素養、事業成長のポイントなどについて聞いた。(全4話)
スタートアップコミュニティの重要性
ーー関西発のスタートアップとして成長されています。東京以外での起業についてどう思われますか?
5年くらい前に関西で「VCから資金調達」をしているような会社はほぼありませんでした。
VCさんから見ても当然効率が悪いですし、スタートアップの数も少ない。ですので、周りのスタートアップはみなデッド(借入)文化で、どうやって銀行から融資を引っ張るかばかり話していました。「株は魂と一緒やから渡すなんて経営者としてありえない!」と言われたこともあるほどです。
ただ、事業を急成長させるにはデッドによる資金調達だけでは難しいのは当然のこと。少しずつ、関西のスタートアップでエクイティ(株式)ファイナンスの事例が出始め、関西の経営者のファイナンスリテラシーが変わってきました。今では関西の経営者も資金調達の話題で「時価総額」の話をするようになってきています。
最近はVCさんも関西のスタートアップに興味を持ってくれるようになり、非常に好循環が回り始めているように思います。
ーーDIMENSIONも関西を含む東京以外のスタートアップに積極的に投資しています。エコシステムが少しずつ東京以外にも広がり始めているのですね。
やはりコミュニティ、というのは非常に大切なのだと思います。
私は「秀吉会」と「EO Osaka」という大阪にある二つの経営者コミュニティに所属しているのですが、2つとも文化は違えど共通しているのは「一杯の水を持ち寄り、一杯の水を持ち帰る」という、みんなの知識や経験を出し合う文化があることです。
こういった文化を持つコミュニティの存在は非常に大事で、先ほどの資金調達の話も、どんどんと議論レベルが上がっていくコミュニティメンバーのおかげで、自分のリテラシーの低さを痛感することができました。
コミュニティのみんなで刺激し合い、成長していく。スタートアップエコシステムにはそういった機会がすごく重要だなと思っています。
ーーBABY JOBさんの資金調達についてお聞かせください。21年7月にはDIMENSION含め5億円の資金調達に成功されました。
私は特殊な部類だと思うのですが、ファーストラウンドは大阪のハックベンチャーズさんにリードしていただいた上で、いままでお世話になった経営者11人にエンジェル投資家として出資していただきました。1人300万円と決めて、自分と深い付き合いのある経営者にお願いしたのです。
そういった真に応援してくださる投資家を集めたことで、自分に足りない部分を今でも日々経営アドバイスいただくことができています。
一方で投資家集めをする際の後悔としては事前に「相性」を見極めなかったことです。
事業を説明する際に、子育てが身近ではないおじさんばかりの会社に「おむつの名前を書くのが大変で…」という話をしてもまったく響きません(笑)。それを説明するだけで非常に時間がかかってしまい、事業を理解いただくまでに至らないことが多々ありました。
結果的に出資してくださった投資家は「あなたたちがこれを成功させないと日本の子育て駄目だ!」と、最初から理解があり、すごい熱量で来てくれるような方でした。
そういう意味ではむやみに広く投資を募ろうとするのではなく、事前に過去の投資実績などを見て相性を見極めてから動いたほうが良かったと思っています。
すべての人が子育てを楽しいと思える社会
ーー御社の今後の展望についてお聞かせください。
私たちのビジョンは「すべての人が子育てを楽しいと思える社会」なのですが、本来、子育てって楽しいもののはずなんです。
しかしながら、今の保護者の方々で子育てに悩んでいる人の割合は非常に多く、NHKの調査では9割の人が「つらい」など育児にマイナスの感情を抱いたことがあるというデータがあるくらいです。
ではどんなことに悩んでいるかというと、多くの場合が子どもの発達、家族との関係、あとは幼稚園や保育所選びといったことが挙げられます。核家族化が進む中で相談する相手もおらず、ネット検索しては不安を募らせる。そんな行動に疲れている方がすごく多いのです。
元来、人類は地域で子育てをしてきました。家族や親戚、近所の人たちと助け合いながら子どもを育ててきたのです。しかし、それがこの数十年の間に「ワンオペ」と呼ばれるような形に変わってしまった。1家族だけで子育てをするというのはそもそもが非常に難しいことなのです。
これを支え、「子育てが楽しい」と実感が湧くような社会を作っていきたい。
今の保護者を見ているとタスクに追われるばかりで、子どもとちゃんと向き合う時間が本当にありません。でもだからといって「もう一度地域で子育てを」と言っても、なかなか難しいのが現実でしょう。
私はこれを解決できるのは全国に4万ヶ所ある「保育所」だと思っています。
保育所が子育てを理解し、保護者に寄り添っていってあげることで、もっと「子育てを楽しく」できる。日本全体を変えることができると思っているんです。
ただし、今の保育所が保護者に対して子育てを支援できるかというと、保育所の中での「子育て支援」という言葉はどうしても困窮度の高い方々に対して専門機関を紹介する、という文脈で用いられています。
もちろんそれも必要不可欠なのですが、もっとたくさんの子育てに悩んでいる人たちの課題を解決する機能を保育所が持つことができれば、日本全体の「子育ては楽しく」なる。
「手ぶら登園」もそうですが、まだまだ保育所と保護者の関係性の中には課題がたくさんあります。
例えば行政が出しているPDFの園リストではなくて、保育所の提供しているサービスや教育情報をオープンにすることで保育所に入るハードルを下げること。保育所を中心とした子育てコミュニティを作り、保育所が子育ての伴走者になること。
これらが日本の子育てを変えていく最も効果的な手段なのではないかと思っています。
ーー「手ぶら登園」以外のサービスも提供していくのですね。
今後の事業展開としては、まずは保育所に入るハードルを下げるプロダクトをどんどん展開していきます。最近では、保育園・幼稚園探しを便利にする「えんさがそっ♪」を22年6月からリリースしました。
また、保育所に保護者の生活を理解してもらう教育コンテンツも提供していきます。保育所って子育てのプロではあるけれども、保護者のことはよく知らないんですよね。
今の保護者の生活、悩んでいること。それにどうアプローチしたら解決できるか。こういった教育コンテンツを提供していくことで「子育てを楽しく」していく世界を実現したいと思っています。
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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