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導入施設2,000以上。おむつサブスク「手ぶら登園」を実現させた連携先とは BABY JOB 上野公嗣社長(第2話)

「すべての人が子育てを楽しいと思える社会」をビジョンに掲げ、日本初(2009年BABY JOB調べ)の保育施設向け紙おむつの使い放題サブスク『手ぶら登園』を展開するBABY JOB。導入施設は2,000ヶ所を超え、新しい市場をリーディングカンパニーとして開拓し続けている。そんな同社の代表取締役社長 上野公嗣(うえのこうじ)氏に起業家として重要な素養、事業成長のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話)

ユニ・チャームと二人三脚で立ち上げ

ーー保育所運営とサブスクリプション事業は全く畑違いの事業に見受けられます。どのようにして事業を立ち上げていかれたのでしょうか。

初めは全くサブスクを立ち上げる意識なんて無くて、2013年の12月に自社で運営する保育所で試験実施したのがきっかけです。

その園は弊社が運営する数ある保育所の中で唯一の認可外園と言われる国から補助金を受けない保育所で、提供する付加価値の一つとして「手ぶら登園」を始めたのです。

具体的にはおむつも布団も持ってこなくていいし、服も最初に持って来たものをすべて園で洗濯する。だから「子どもと手をつないで登園してきてください」というサービス。これがすごく保護者から人気があり、感謝もされました。

非常に人気だったので他の認可園でも展開したいと考えたのですが、どうしても認可園は「どんな所得水準の方でも来られる」ことを基本理念としているため、保育料以外の料金をいただくのが難しい。実現方法が見出せないでいました。

転機になったのは前職のユニ・チャームの後輩からの相談でした。

共働き世帯の増加とともに保育園の利用率がどんどん上がっている中で、ユニ・チャームがこれまで様々な調査をしてきた「家庭内」のニーズではなく、「保育所内」の利用実態や展開方法について知りたいという相談でした。

そこで逆に「手ぶら登園」の構想を話しました。もしユニ・チャームに協力いただければ、我々が保護者の決済システムや保育所の在庫管理システムを作り、ユニ・チャームがオムツを最小ロットで園まで届けるという仕組みが作れる。そのやり方であれば保護者の在庫を園が預かっているだけなので、全国の認可園でも追加料金なく展開できる。

こうやって「手ぶら登園」の独自のビジネスモデルは生まれました。

 

ーー最初は自社で運営する保育所向けのサービスだったのですね。

最初はサブスクという意識もありませんので、年齢、サイズ、1日あたりの利用枚数、登園日数など、かなり複雑な価格表を作ってスタートしました。

しかしながら、それでは全く浸透しませんでした。

現場に行って原因を見てみると、価格表が複雑なせいで保育士と保護者のやりとりが非常に煩雑になっていて、「他の子に使ってるんじゃないか」「使いすぎなのでは?」「サイズは小さい方でいい」など、これまでに無かったやり取りまで発生していたのです。

これでは保育士の仕事が煩雑になるので、保育士におすすめしてもらえません。

 

ーーどのように対応されたのでしょうか?

次は土曜日の登園があるか無いか、というシンプルな価格体系に変更しました。「これならいけるだろう!」と思ったのですが、改善はしたもののやはり「土曜の代わりに平日休んだ」などのやりとりがあって。

そうした紆余曲折を経て、最終的に「単一料金・使い放題」という料金体系になりました。そうしたら自然と「サブスク」と呼ばれ始めたのです。

振り返って見ると、顧客である保護者、保育士の課題を現場に行き確かめたこと。特に保育所側から見たときの不合理を解決したことがターニングポイントでした。

「手ぶら登園」と聞くと保護者にとっての利益が前に出がちなプロダクトではありますが、保育士の課題も解決できたことが、2,000施設・30,000人以上にサービスが広がった大きな要因であったように思います。

 

未開の地を泥臭く切り開いた

ーーPMF(プロダクト・マーケット・フィット)後のスケール方法について聞かせてください。現在は私立園のみならず公立の園にも、合計2000施設以上に「手ぶら登園」のサービスは導入が進んでいます。

最初の頃は保育所に電話営業をひたすら繰り返していたのですが、アポ獲得率は1%以下。「おむつの定額制サービス」という聞いたこともないプロダクトでしたので、話すら聞いてもらえない状態で、社内メンバーもかなり疲弊してしまいました。

ただ少ないとはいえ、話を聞いてくれた保育所を訪問してサービスについて説明をすると、みなさん口を揃えて「いいね!」と言っていただけたんです。保護者・保育士の負担が軽減できて、なおかつ園は無料で導入できるわけですから、否定する理由があまりありません。

なので外部のコールセンターを使ったりしてアポイントの質・量の向上を目指し、ちょうどその頃に「日本サブスクリプションビジネス大賞2020」でグランプリを獲得したことで認知も上げることができました。

特徴的だと思うのは、サービスの対象となる全国約4万の保育所に対して、すでに何周か電話アプローチをしているのですが、周を追うごとに徐々にアポ率が上がってきていることです。徐々にカテゴリとしての認知が上がってきたおかげで、商談の打席に立てることが増えてきました。

とはいえ、今ご利用いただいているのは約4万のうちの2,000園なので、まだ5%。俗に言うアーリーアダプターのみなさまです。ここからキャズムを超え、マジョリティ層にアプローチしていくのは私たちの新しい挑戦になると思っています。

 

ーー自社完結にしようとせず、アポイントはアウトソースを活用しているのが印象的です。

内製すべき部分を見極めるということが大切だと思います。

例えば我々はカスタマーサクセスチームとしてコールセンターを内製化していて、保護者・保育所さんへの案内やトラブル対応に細やかに対応しています。おかげさまで保育所のチャーン(解約)はほぼゼロです。

直近コロナの影響で行政が登園控えを促した際も、「園を休むのにおむつ代だけ払い続けるのか」という問題が発生しました。しかしスピーディにアマゾンギフトカードの還元などにより事前対策することで、トラブルを最小限に抑えることができました。

これはCSチームを内製化していたからこそできたこと。

製品価値においてこだわるべき部分かどうかを見極めながら、内製化とアウトソースをはっきり使い分けることが重要だと考えています。

 

ーー非常に順調にも見えますが、何か新たな課題が生まれていたりしますか?

現在の事業課題は継続率の観点です。

どうしてもトイレトレーニングを始める年齢になるとオムツの使用枚数が減少していきますので、コスパを考えてサービスの利用を停止されることが多くなっています。しかしながら保護者、保育士双方、本当はおむつを卒業するまで使い続けたい方が多く、「トイレトレーニングプラン」を作って欲しいという声をたくさんいただいています。

単純に料金体系を追加するとまた先ほどの話の繰り返しになってしまいますので、いかにシンプルさを保ちつつも、そういったご要望に答えられるかが今後の課題になっています。現在も保育所さんと一緒に研究しながらサービス開発を進めています。

 

大企業との連携は「トップと理念で握れ」

ーーおむつ業界シェアNo.1のユニ・チャームさんとの提携が御社の大きな競争優位性になっているかと思います。スタートアップが大企業と連携するに際して意識しているポイントがあればお聞かせください。

まずは「役割分担が明確」であること。

「手ぶら登園」の場合は物流と商品供給をユニ・チャームさん、それ以外は我々という分担。メーカーさんが保育所のカスタマーサクセスや営業をすることは難しく、互いにできない部分を補い合えています。なので、どちらかが相手の役割を自分がやろうという話になりません。

次に「理念で握る」こと。

驚かれるかもしれませんが、実は私はユニ・チャームさんと「どっちがどう利益を出す」といったビジネスの話をしたことないんです。

価格設定やサービスの打ち出し方に到るまで、すべて我々に任せていただいています。ユニ・チャームさんは当然商品を配荷する物流構築コストもかかっていると思うのですが、そんな話をされたことも一度もありません。

なぜそんなことができるかというと、理念の部分、「保護者の負担を軽減する」という理念に対して互いに何ができるかを考えているからです。理念さえ握りあえていれば、あとのビジネスやコスト構造の部分は自社で考えて実現すればいいのです。

最後に「トップと握る」こと。

大企業の人ほど、現場のメンバーは大きな方針に抗うことが難しいです。最初は現場メンバーからの相談がきっかけで始まった「手ぶら登園」事業ですが、現在はユニ・チャーム高原社長に直接、定期的に報告をしながら事業を進めています。

「役割分担が明確」で、トップと「理念で握る」こと。これが我々がユニ・チャームさんとうまく協業できている理由なのだろうと思っています。

 

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Broducer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。楽天に勤務後、EdTechベンチャーの東京オフィス立ち上げに参画。法人向け事業の急成長に貢献。その後グロービスにて英語MBAプログラム Japan Accountのリーダーとして、個人向けマーケティングと事業開発を担当。国内のスタートアップへの投資・上場支援を行い、志高い起業家への経営支援を通じて日本経済の活性化に取り組む。週末を中心にビジネススクールで思考領域の講師も務める。

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