#インタビュー
「経済情報で、世界をかえる」をミッションに掲げ、企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」を提供している株式会社ユーザベース。2008年創業のベンチャー企業でありながら、2013年に上海・香港・シンガポールに拠点を開設し、2016年にはスリランカにリサーチ拠点を開設。翌年、2017年にはNewsPicksの米国進出に伴い、Dow Jones社との合弁会社をニューヨークに設立するなど、グローバルでアナリストや編集者、公認会計士など多種多様なプロフェッショナルが集まる会社としても名を轟かせている。今回は、同社の取締役・新野良介氏に起業家の素養や組織づくりの秘訣などについて聞いた。(全7話) ※本記事は2017年7月21日に実施したインタビュー内容を基に作成しております。
レストラン経営で痛感した「100人のファンを作れ」の意味
――起業家にとって大切な素養を3つ挙げるとすると何とお考えでしょうか?
まず「『目の前のお客様をいかに満足させるか』という執念と、将来のビジョン・夢の強さ、その両極の強度が高い」。次に「困難な時こそ団結できる人と働く」、そして「PDCAを高速回転させられる」の3つではないかと思います。
新野良介
三井物産生活産業セグメントにおいて事業投資部隊に所属し、国内中間流通戦略の立案、事業投資の実行、企業再建に従事。その後、UBS証券投資銀行本部にて消費財・リテールセクターを担当し企業の財務戦略アドバイザー業務に従事。2008年に株式会社ユーザベース(UZABASE,INC)を設立。企業・業界分析のための経済情報プラットフォーム「SPEEDA」とソーシャル機能を兼ね備えた、経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks」を展開。東京、大阪、シンガポール、香港、上海、スリランカ、ニューヨークに拠点を構える。
1つ目の「『目の前のお客様をいかに満足させるか』という執念と、将来のビジョン・夢の強さ、その両極の強度が高いこと」。これは例えばAmazonのジェフ・ベゾス氏はその典型だと思います。「明日届くのでもびっくりなのに今日届くの!?」と、顧客を満足させることに一歩も引かない執念。そして「どこまで事業伸ばしちゃうの!?」とも感じるほどの大きなビジョン。どちらも極めて強く持っていますよね。
「両極が強いこと」が肝で、一般的には、「こんなにお客様に尽くしても儲からないかな」などとあれこれ考えた挙句、結局中間解に落ちてしまうことが多いんですよね。
これについては、以前NewsPicksでも記事化された、カリフォルニアのベンチャーキャピタル・Yコンビネータの教えとして「100人のファンを作れ」というものがあります。(リンク)この言葉はまさに金言で、要するにお客様が「ああ、これを使って良かったな」「良いサービスだったな」と喜んでくださる以上の価値なんて存在しない。その価値を生むためにビジネスモデルを洗練させていく執念が必要だという意味なんです。
AirbnbのCEOであるブライアン・チェスキー氏も「100人のファンを作れ」という言葉に支えられたと発言しています。その100人から始まって、今や宿泊施設検索サービス「Airbnb」は世界中で展開されていますよね。
――「目の前のお客様を満足させること」の重要性を感じたのは、何か原体験があったのでしょうか?
実家の稼業で、兄とレストランを経営していた時の経験が元になっています。当時、伸びていた競合を参考にしつつ、利益率の高い飲料を注文してもらうために「まず飲み物の分しかメニューを出さない」「『お飲み物は?』としか聞かない」などいろいろと真似をしてみたんですが、ちっともお客様が来なくて(笑)。おまけに焼肉レストランだったので、狂牛病のニュースに大打撃を受けて、どんどん客足が鈍っていったんですよ。
そんなときに、「少なくとも来てくれるお客様を満足させなきゃ」と、競合研究を止めて目の前のお客様に集中し出してから、客足が伸び始めました。「ああ、これが本源的な価値に拘るということなんだな」と思いましたね。
自分の店に来てくださるお客様がどういう人かという情報は、世界で一番私が持っていたはずです。それに根ざしてしっかりやっていけば、そのお客様を満足させることにかけては世界一になれる可能性がある。そういう風にミクロな視点で、一人一人のお客様を満足させるという執念が物凄く重要だと思います。
その後、三井物産で勤務していた時も、事業投資などで上手くいっている理由を一般化すると、やっぱり事業を進めようとしている人に情熱があるか、かつその人が事業をよく知っているかどうかなんですよね。私はそれを「肌触りのある需要」と呼んでいます。需要があることだけでなく、その肌触りまで分かるほど知り尽くしているという場合に成功率が高かったんです。
これらの体験を経て、目の前のお客様を満足させる執念の重要性を体感しました。
大物起業家に共通する「人生の一回性」の意識
もうひとつの極である「ビジョンの強さ」についてお話しします。
経営のボトルネックとは何か?それは突き詰めると経営者の能力です。そして経営者の能力の最大のボトルネックは「経営者自身のメンタルモデルの大きさ」だと言えます。
例えば私の考えられる範囲と、孫正義さんの考えられる範囲は全く違う訳ですよね。「売上を豆腐のように1丁(兆)、2丁(兆)と数える」と私が真似してみたところで、どこか嘘くさいと思ってしまい、人に本気度は伝わらないでしょう。それはいまの私のキャパシティを超えているのでしょう。
打ち手というのは向かうべき方向を決めてそこから逆算していくものなので、構想を大きく描ければ描けるほど打ち手の強度が高くなり、中間解に落ちなくて済みます。「たとえ人に批判されることであっても、やるべきことだったらやる」という力がそこで生まれるんです。
――確かに。成功している人、魅力的な人は「独自のビジョンを持っている」という共通項があると感じます。新野さんが「ビジョンが大事だ」と気づかれたのは、何か契機があったのでしょうか?
私が内省的な人間だからそう考えるのではないかと思います。そして、なぜそれを一生懸命考えるのかというと「幸せになりたい」という自己愛が強かったからだと思います。ゆえに、「幸せになるためにはどうあるべきか?」を考えたがる。
その特徴をわかりやすく例えると「中二病」です(笑)。起業するというのは「中二病的心を持ち続ける」ことだと思います。
では、なぜ中二病になるのかというのを深堀りして考えると、それは「一回きりのこの人生を有意義にしたい」という欲望が強いからだと思います。「一回きりなんだから、やるっきゃない!」という想いが増すんですよね。
楽天株式会社CEO・三木谷浩史さんは「阪神・淡路大震災で多くの人の死を目の当たりにしたことをきっかけに、価値観が変わった」という話をしておられますが、あれも人生の一回性を非常に意識しているということです。Appleのスティーブ・ジョブス氏の有名なスタンフォード大学卒業式講演の3つ目の話も”About death”でした。
――新野さんご自身にも、人生の一回性を強く意識するような出来事があったのでしょうか?
私は事業をやっていた父親の影響が大きいですね。小さい子どもから見た父親は世界一かっこいい男で、何でもできるスーパーマンじゃないですか。その彼が経営者だったので、野球選手の息子が野球をやりたくなるのと同じように、父の姿を見て自然と備わってきたというのがひとつです。
その迷いがさらに少なくなったのは2012年頃。その時期、病気で倒れて7ヶ月くらい会社を休まないといけなくなってしまったんです。「もう社会復帰できないかもしれない」とまで言われて、その時いかに自分の持っていたものが貴重だったか、悩んでいる時間が無駄だったかを痛感しました。「こんなに素晴らしい仲間と可能性のある事業に出会っているのに、儲かるだの儲からないだの何小さいこと言ってるんだ!」と思ったんです。
大切なものを取り上げられそうになった瞬間、そのことを強く感じたという意味で言えば、私はいわば小さな死を経験したのかもしれませんね。
>>第2話「起業家にとって究極に必要な1つの素養とは」に続く
>ユーザベース公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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