大企業エンジニア時代に養われた起業家としての素養 GROOVE X 林 要社長(第2話)

人々の潜在能力を向上させ、癒しを与える新世代の家庭用ロボットを開発するGROOVE X。2015年の設立以降、多額の資金調達にも成功している今注目のスタートアップ企業だ。同社のCEOであり、ソフトバンクの孫正義氏の誘いに応じて「Pepper」の開発にも携わった林要氏に、起業家としての心得やチームマネジメントの極意について聞いた。(全6話)

原点は小学生の頃に読んだ『開発物語』

――林さんはどのようにして先ほど挙げていただいた起業家に必要な素養(第1話リンク)を身につけられたんでしょうか?

まず、私のものづくりの原点は小学校時代に遡ります。当時、学校の図書館にあった様々な開発プロジェクトのノンフィクションのシリーズを没頭して読んでいました。その中では大西洋を横断したリンドバーグや月まで有人飛行したアポロ8号など、様々な命がけの開発プロジェクトの話が語られていたんですね。その開発プロジェクト系のノンフィクションは全部読破したほど、当時の僕を非常に熱くしてくれました。そして自然と「こういうのをやりたい!」と思うようになったんです。

ところが会社(トヨタ)に入ってみると、ちょうどタイミング的にバブルが崩壊した影響で世の中は効率化一辺倒になっていました。何が起こっていたかというと、ものづくりの会社に入ったはずなのに「試作レス」という、コストを下げるためにいかに試作を作らないかというトライアルがなされていました。小学生の自分が夢見たような「夜中まで試作品を作って、ダメ出しされて翌朝までに直して『お前よくやった!』と褒めてもらう」なんて話はどこにもない。そもそも深夜残業禁止ですし(笑)。

そんなモヤモヤを抱えているうちに、LFAというスーパーカーやFormula-1(F1)の開発に関わるチャンスに恵まれました。そこは一般的な車の開発現場とは異なり「放任主義」でした。みんなそれぞれ、勝手にチャレンジし、結果を出すことが求められる世界です。

そのような世界で結果を出すためにはどうすればいいか?先ほど(第1話リンク)も少しお話ししましたが、世界中の何千というトップエンジニア達がたった1台の車に叡智をつぎ込んでいるので、通常思いつくようなことはすべて既に試されている。

そこでまずは「自分が考えつくことをやらない」ことから始めました。先ほど(第1話リンク)から申しているような「非常識な真実」を見つけ出す努力をしたわけです。そうすると、面白いことに例えばF1でもレースカーの開発を全くやったことのない私が定期的に結果を出せるようになりました。

もちろん、出すアイデアは「非常識」なので最初は同僚からバッシングを受けます。皆、直感的に許せないんですよね。でも性能が上がると評価が面白いほど変わってくるんです。そんな「非常識な真実を発見すること」の成功体験をLFAやF1開発を通して積むことができました。

 

トヨタ時代に痛感した、人を動かすことの難しさ

ただし、自分1人で出せる成果には限界があります。F1で言うと、いちエンジニアの守備範囲である部品だけではレースに優勝することはできない。そこで「人を率いないとダメだ」と感じ、F1から本社に戻る際に、「Z」という量産車の製品企画というプロジェクト・マネジメントのポストに異動しました。

「Z」に行って身に染みたことが、「いかに人を率いることが難しいか」です。

各エンジニアは他にも何車種もの案件を抱えていて、仕事がオーバーフローしている。そんな中で、1車種の正論だけを押し付けても誰も1車種に魂を込めるようには動いてくれないわけです。

そんな状況の中、必要にかられて身に着けたのが「ストーリーの力」です。自分のプロジェクトの会社における立ち位置、存在意義から始まり、個々の仕事がどのように貢献していて、どれほど重要なのかを語る。そういったことを始めて、ようやく私のような若輩者のお願いに対しても、自ら「やるぞ!」と燃えてくれるエンジニアが出てくるようになりました。

「ストーリーの力」は、このように大企業のプロジェクトマネジメントを通して身につけたように思います。

 

――その後、ソフトバンクCEOの孫氏に腕を買われて、「Pepper」の開発リーダーに着任されたと。

ええ。トヨタには14年間勤めていたので、正直、そこから出るのは不合理なほど怖かったですね。

 

――どうしてそのような決断が出来たのでしょう?

それは孫さんのお陰です。あと、もうひとつは好奇心ですね。

日本の企業って、十数年勤めるとだいたい自分の会社での自分の未来像が見えてくるじゃないですか。「社長にはなれないだろうけど、運よく役員まで行けたらこんな仕事、部長になれたらこんな仕事、課長ならこんな感じの役割だよね」とか。どの立場・役職であっても十分に素晴らしいことなのですが、なにをやっていて、どこに悩むのか、なんとなく想像できた気になってしまう。それは幻想なのかも知れないけど、見えた気になるわけです。

「違う人生を歩んでいたらどうなるんだろう」と誰しもが一度は考えることがあると思うんですが、私の場合、考えるだけでなく、それを本当に体験してみたかった。そういった好奇心が人よりも強く、転職の恐れに打ち勝ったんだと思います。

「非常識な真実を発見すること」の成功体験を積むと、常識的な範囲で戦う辛さが分かってきます。非常識な中に真実があるんじゃないかと考えてしまう。ですから、「トヨタの人が普通は辞めないんだったら、辞めるところに成功パターンが存在するんじゃないか」と、キャリアにおいても非常識な方向に逆張りするような好奇心を持つようになったのかも知れません。

 

 

>第3話「人の魂の受け皿になるようなロボットを作りたい」に続く

>第1話「非常識の中から1%の真実を見つけ出す」に戻る

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著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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