人材も出資者も惹きつける「ストーリーの力」 GROOVE X 林 要社長(第5話)

人々の潜在能力を向上させ、癒しを与える新世代の家庭用ロボットを開発するGROOVE X。2015年の設立以降、多額の資金調達にも成功している今注目のスタートアップ企業だ。同社のCEOであり、ソフトバンクの孫正義氏の誘いに応じて「Pepper」の開発にも携わった林要氏に、起業家としての心得やチームマネジメントの極意について聞いた。(全6話)

「共感をどう醸成するか」が人材採用の鍵

――多彩な人達が集まっているとのことでしたが、採用について何か工夫やこだわりはあるのでしょうか?

採用については知り合い経由での紹介が多いですね。

一方で、社員をもっと増やしたいという気持ちは凄くあるんです。しかし「人を増やすこと」と「文化に共感できる人であること」のどちらを優先するかと言われれば、私は後者を選択しています。あくまでいい人がいたら採るというスタンスです。

おかけさまで、入ってくれているスタッフ達とのマッチング率は高いと思います。エンジニアの離職率も今はゼロをキープしています。

 

――採用の取組みの中で「これは上手くいった!」というものはありますか?

採用の要になるのは「共感をどう醸成するか」だと考えています。

GROOVE Xでは先ほども(第3話リンク)お話ししたようにTech Lunchという社内イベントを開催しています。そこでは、参加者があまりTechに関係の無いことでも各々しゃべりたいことを喋る(笑)。ただ、仕事が趣味みたいな人が多いので、みんな話すことが深いんですよね。玩具会社勤務だった人から皆が知ってる「◯◯シリーズを作ってました!」みたいな裏話がぽんと出てくるとか、人工知能からおもちゃまで、それぞれの領域の深堀りされたエピソードが面白いんですよ。

そのイベントをアフター7にして社外にも解放したことがあります。すると社外の方が弊社の世界観にシンパシーを感じて興味を持ってくださり、今は一緒に働いていたりします。

 

――互いに仕事だけの関係ではなくて人として理解し尊敬し合うことを重視されているような印象を受けます。

そうですね。プロフェッショナルで、更に文化面で肌が合うということを採用では重視していますね。

 

約束を守り続けることで紡ぐ信頼感

――貴社は各有力者からの資金調達などにも成功されているようにお見受けします。社外の人を魅了する秘訣をお教えください。

我々は資金調達が決して上手い訳ではないので、かなり地道にやっているというのが正直な所です。プレゼンだけで数十億円集めちゃう、みたいな猛者が世の中にはいますからね(笑)。

資金調達の際に大切にしていることは「できないことを言わない」ことですね。

具体的に何をやっているかというと、まずロードマップを書いて、それに合わせて作ったモノを見せています。多くのハードウェアスタートアップはお金欲しさに話を膨らませちゃう傾向があります。ベンチャーキャピタルの皆さんはそういう大風呂敷に慣れっこですから、割り引いて考えるのが当たり前になっているんですよ。だから私どもが話したロードマップの予定通りにモノを出すと、凄く驚かれます。

 

――それが信頼に繋がっていくんですね。

そうですね。我々としては例えば3週間の遅延でも致命的だと思っているのに、「1〜2年遅れるとかザラですから」とびっくりされるんです(笑)。

弊社が事業としてやっていることに対してレバレッジをきかせて資金調達できているかというと、実はそんな事は無いと思います。うまくやっていたら、集めれるお金は更に一桁違うかも知れませんが、私どもは現状の計画で事業を計画に載せられると考えているので、それ以上は高望みしていません。

自分たちの「ストーリー」を進化させ続ける

――海外投資家からの資金調達にも成功されているとのことですが、海外投資家から資金を募る際の留意点等ありますか?

海外から資金調達する場合もポイントは変わりません。

ただ、「ビジネスが世界に向けて広がっている感」をアピールすることは当然ですが大事だと思います。正直、海外の投資家は目が肥えています。レベルの高いものを多く見ている。そういう意味では日本国内・海外問わず、資金調達の最中に自分のストーリーをブラッシュアップしていくことが不可欠です。

特にシード期のエンジェル探しはどこから手を付けたらいいのかも分からないじゃないですか。とりあえずFacebookの友達の中から「投資してくれる人、誰かいる?」と声をかけるところから始まったりしますよね(笑)。

そうすると「話を聞いてやってもいいよ」という人達がちょこちょこ出てくる。そういう人達の疑問を丹念にすくい取り、ファンになっていただく必要があると思います。

投資家の期待や要望になんでも応えろというのではなく、投資家の疑問に対して真摯に考え、やっつけの回答はしないことです。なぜなら、必ず彼らと同じ疑問を感じる人が今後も出てくるからです。それは10人に1人かもしれないし、30人に1人かもしれない。でも、必ず存在する。そういう人に向き合えるよう、質問を貰う度に自分のストーリーを磨き上げていくと、ソリッドな事業計画書が出来上がってきます。

シード期に資金調達をし始めた時のプレゼンと、最終的に資金調達を終えた時のプレゼンでは、ボリュームが十倍違っていても普通だと思いますね。

 

 

>第6話「日本の産業はまた必ず伸びる。その一助になりたい。」に続く

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著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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