#経営戦略
SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で総合政策学部長、研究所長などを歴任し、現在は慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授。長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣について聞いた。(全6話)
現状は必ず変わる、だからこそ夢を形にしてほしい
――先生ご自身の信念や成し遂げたいことを伺ってもよろしいでしょうか?
やっぱり若い人達に思いをやり遂げて欲しいと日々思っています。これは、学校の先生だからそう思うのかもしれませんが、自分の悔いのないようにというと変ですが、潜在能力をめいっぱい発揮して欲しいなというのが一番大きいですね。
大企業の中でそれができる人はそれでも構わないんです。
ただ、自分の夢を自分の手で形にするっていうのはとても大事なことですから、「起業する」という選択を考えた時に、実現できるだけの能力を持っていてくれたらな、と思いながら今までやってきております。
それと、先ほど(第5話リンク)言った通り、現状というのは必ず変わるものです。
なので、「現状に安住しない。現状に絶望しない。」
これが私が若者達に伝えたいメッセージです。
――先生のメッセージと関連するんですけれど、若い人達、特に「ゆとり世代」「さとり世代」と呼ばれるような世代は、一度も右肩上がりの日本を経験したことがなく、ある種諦めてしまっているような風潮も感じます。
でも、この国、有効求人倍率を見てみると1.48倍ですよ?これは世界の中で見ると本当に凄いことなんですよ。
――そうなんですよね。なのに、得体も知れない閉塞感を抱いている若者が多いのかなと感じています。そういう若者にとって「現状は必ず変わる」というのは強いメッセージだと思うのですが、先生は、日本はもう一度再浮上できると思われますか?
ちょっと文明論的にお話ししますね。
本当は日本は1980年代くらいに成熟に達していて、量的な成長から質的な成長を目指す時期が存在していたはずなんです。ですが、新興国という大需要が来てしまったので、その動きが止まってしまったんですね。
とはいえ、いつかは必ず新興国も量的に飽和する時がくるので、その時になって質的成長というテーマに戻ってくるんだろうなと思っています。そして、その質的成長を目指すマーケットとして、日本は他の国の先を行っていると思います。だからあまり絶望しなくていいんじゃないかと考えています。
先ほどの有効求人倍率の話に戻りますが、日本は人手不足で本当に困っていますよね。視点を変えると、失業のことをあまり心配せずにAIを導入できる国って、普通に考えて日本くらいしかないと思いますよ。例えばバスやタクシーを無人化するという未来は見えてきていますが、それを他の国でやったら、タクシーの運転手をやっている方たちが暴動を起こしてしまうかもしれません。
別にSFの世界のような、AIが人間に取って代わるという話をしたいわけではありません。AIが人間の生産性を倍にして、一人あたりの所得を倍にしてくれればいい訳です。
もちろん日本でも他国と同様の確執は発生するでしょうが、世界に比べると日本は人手不足だからこそチャンスだ、というくらいのタフな精神を持つことが重要だと思います。
若者達よ、楽天的であれ
――それに加えて、強い競合の「アキレス健」を見つけて突くと。(第5話リンク)
これは若い人ならではの特徴なんですけれど、今二十歳すぎの子って生まれた時からiPhoneがあったくらいの感覚なんですよね。僕らからしてみれば、ついこの間iPhoneが生まれたぐらいのイメージですが。
このように若い人の弱点というのは、経験が浅いがゆえに今あるものが未来にもずっとあると思いがちなところなんです。でも年を重ねた人間ほど、「今あるものは次になくなるかもしれない」と考えてるんですよね。
ですから、若い人達に向けて言えることがあるとすれば、「今あるものが明日もあるとは思わないほうがいい」ということです。いま強い相手が未来永劫強いままとは限らないんですよ。 今はGoogleに勝てっこないと思ってるかもしれないけど、絶対勝てるんです。
……というようにやはり冒頭に話したとおり(第1話リンク)、楽天主義が起業家には大事なんじゃないでしょうか(笑)。
何度も繰り返しになりますが、「現状に安住しない。現状に絶望しない。」
こんな想いで、チャレンジする若者が増えることを願っています。
>第5話「世界で飛躍するために相手の「アキレス腱」を見極めよ」に戻る
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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