鈴木修の『スタートアップメンタリング回想録』 第7回 自分ゴト化と”ネガティブ査定力”

鈴木 修

鈴木 修

Director

■はじめに

本シリーズでは、ベンチャーキャピタルDIMENSIONの鈴木修が日々行っている出資先スタートアップへのメンタリングを振り返りながら、主に組織や人の成長について思うことを書き連ねていきます。

これが唯一正しいということではなく、多様な見解が生まれていくきっかけづくりになればと思っています。

それでは、今回のメンタリング回想録をどうぞ。

※鈴木修のプロフィールはこちら

 

■自分ゴト化と”ネガティブ査定力”(読了時間目安:5分)

業界や組織規模や成長ステージを問わず、成長を目指す組織には次々と問題が至る所に発生し続けますが、その問題は会社固有の問題というものはほぼ無く、どの会社でもほぼ同じ問題が発生します。

ですが、同じ問題だとしても、得てして、組織規模が小さければ小さいほど(=スタートアップやベンチャーであればあるほど)、その問題は問題の実態よりも「大事(おおごと)」になってしまうことがあります。

実態として軽微なことや部分的なことや一時のことも、大事(おおごと)に。

その理由の一つは、小さな組織では、組織に起こる様々なコトをメンバーが自分ゴト化しやすい、ということにあります。

例えば、良いニュースひとつを一人一人が自分の事のようにとらえてみんなで盛り上がることができたり、何か一つの課題に対して一人一人が自分に何ができるかを考えて行動できたり。

組織規模が小さいと全てのコトが身の回りで起こるコトなので、誰しもが自然と自分ゴト化しやすくなります。

このように、自分ゴト化は一体感や責任感につながるものですので、小さい組織にとってはとても大切なことです。

一方で、ネガティブなコトが発生した際に、メンバーが過度に大事(おおごと)に大袈裟に自分ゴト化してしまうことは避けなければいけません

そうなると、ネガティブなコトひとつが実態以上に大きく広く組織に心配や焦りや不満の連鎖を発生させ蔓延させてしまうことになります。

こういったメンバーのネガティブなコトに対する自分ゴト化の仕方の誤りの連鎖が、問題が実態よりも大事(おおごと)になってしまう大きな原因の一つです。

念のためですが、ここで言うネガティブなコトというのは、ネガティブな“事象”だけではなく、ネガティブな“人材”ということももちろん含んでいます。そして特に後者のネガティブな“人材”が発生した際に、過度な自分ゴト化=問題の大事(おおごと)化がかなりの確率で組織の中で起こります。

ですので、やみくもに自分ゴト化は良いことだ!自分ゴト化するように!ではなく、ネガティブ事象やネガティブ人材が発生した際には、都度都度適切なレベルで自分ゴト化できるようにメンバーの自分ゴト化力を育成することが大切です。

そしてその自分ゴト化力の育成の中でも重要なことの一つは、メンバーに“ネガティブ査定力”を身につけさせていくことです。

何かネガティブ事象やネガティブ人材が発生した際に、

そのネガティブな事象や人材は何に誰にどれくらいいつまで影響するのか/しないのか?
そのネガティブな事象や人材は自分に本当にいかほど影響するものなのか/しないのか?
そのネガティブな事象や人材の問題解決は自分にコントローラブル/アンコントーラブルなのか?

等々、すぐに受け止め反応するのではなく、まずは一旦落ち着いてこういった問いを自分で自分に行う癖付けと、その結果としてネガティブ度合いを適正に見極められるようにする=適正な“ネガティブ査定”をできるようにすることが必要です。

ここでネガティブ査定をどうやって行うのかについて少し補足説明しますと、何も難しく考えることはなく、無影響から最大影響までを10段階でメンバーに査定してもらい、その理由を考えてみてもらうといったことからはじめてみます。

大切なことは、それをきっかけに、実際に事業や組織に与える負の影響の有無や大中小について、上長や経営陣で丁寧に対話をしてあげてメンバーとすりあわせていくことです。それをしないと、メンバーの考え方や気持ちや性格や成熟度合いによって事実とは違った大事(おおごと)や大袈裟が生じ続けます。

ネガティブ査定は様々なネガティブケースを経験することで適正に行うことができるようになりますので、適正なネガティブ査定ができるようになるまでは、長い時間をかけて様々なネガティブケースで都度都度メンバーに査定をしてみてもらい、それを上長や経営陣とすり合わせていくことを積み重ねていきます。

そのプロセスを経て、メンバーはネガティブを客観的に査定できるようになり、過度な受け止め=過度な自分ゴト化が軽減されていくものです。

したがって、メンバーのネガティブ査定力育成の第一歩は、何かネガティブな事象や人材に遭遇したならば、一旦落ち着いて先ほどのような問いを自分で自分に行う癖付けを行ってもらうことからはじめます。

そのように一度立ち止まって自分に問いを立て考えるだけで、ネガティブな事象や人材を客観的に距離を置いてとらえることができ、自ずと落ち着いてくるものです。

そういった問いを立てて客観的に距離を置いてネガティブな事象や人材をとらえることができないと、ネガティブ事象や人材をそのまままるっと受け止めてしまい、慌てた動きや対話や振る舞いをしてしまい、自分の気分を下げて自分のパフォーマンスにまで影響してしまうなど、自分で大事(おおごと)化してしまうのです。

さらに、その大事(おおごと)化による適切でない対話を陰で他のメンバーに行ってしまうことで、その対話相手のメンバーが負の影響を受け、そのメンバーもさらに・・・といったように組織の中で問題の大事(おおごと)化が広がっていくネガティブムーブが発生します。

得てして、能力や経験がジュニアなメンバーや仕事の特性や性格がサポーティブなメンバーは、あらゆるネガティブな事象や人材に、特にネガティブな人材に対して、気持ちや頭で過敏に受け止めてしまい慌てたり気分を下げたり、または正義感により過度な動きをあちらこちらにしてしまい、組織の大事(おおごと)化のネガティブサイクル/ネガティブ波紋の起点になってしまいがちです。決して悪気はなくネガティブサイクル/ネガティブ波紋の起点になってしまう。

こういった可能性のあるメンバーには、こういったことをきちんと伝え理解と注意をうながし、ネガティブ査定力を育成していきましょう。

あらためてですが、どれほど事業が成長したとしても組織から問題が消えることは100%ありえませんから、常に速度を持って適切に問題に向き合い適切に問題を解決し続けていかなければなりません。

その問題解決の速度を遅くしてしまうのは、問題発見の遅さや、問題特定のズレや、解決策の間違いや、解決実行の誤りなどももちろんあります。

ですが実は、これまでお伝えしてきたように、ネガティブを過度に自分ゴト化してしまう=ネガティブ査定を過剰査定してしまうということが、問題を実態よりも大事(おおごと)化し組織に広めてしまうことで、問題が複雑になり解決に手間がかかり(多くは解決のためのコミュニケーションコストが膨大爆大になる)、結果、時間がかかってしまうということが本当にどの会社でも多々起きています。

メンバーのネガティブ査定力、これを意識させ考えさせ育成する、行っていますでしょうか。

メンバーのネガティブ査定力は僕の造語ではありますが、こういったことをはじめて聞いたという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

そして、みなさんの組織も、このメンバーのネガティブ査定力が育っていないばかりに、問題が大事(おおごと)化してしまって大変になっている/なったことがあるのではないでしょうか。

正しい自分ゴト化、そのために必須の“ネガティブ査定力”。

ネガティブな事象や人材がすでに発生しているようでしたら今すぐに、今は発生していなくとも今後発生した際には(必ず発生します)その時すぐに、ネガティブをテーマにした対話を恐れることなく、みなさんのメンバーの“ネガティブ査定力”の育成を開始してみてくださいね。

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今回の『自分ゴト化と”ネガティブ査定力”』、いかがでしたでしょうか。

本シリーズでは、鈴木修の本コラムでこういったテーマや課題を取り上げてみて欲しいなど、もし何かリクエストがございましたら、こちらまでお気軽にご連絡ください。

それでは、また次回。

 

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第1回第2回(前編)第2回(後編)第3回第4回第5回第6回

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