【イベントレポート:出版記念トーク】仮説の構築と検証 SHOWROOM 前田裕二社長(第2話)

DIMENSION株式会社は、『スタートアップ――起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則』の出版記念イベントを開催した。当日はSHOWROOMの代表取締役社長 前田裕二 氏に登壇いただき、DIMENSIONビジネスプロデューサーであり著者の伊藤紀行との対談や公開質疑を行った。本稿では、本イベントの内容を一部レポートする。(全2話)

「仮説なんて3秒で立てなさい」

ーー伊藤:事業のタネが見つかった次は、事業を推進していく、あるいは取り組まれている事業の中でも仮説を作って広げていくということが鍵になってくるのかなと思います。

本の中では、自分たちの強みをきちんと認識した上で、やはりスピードって大事で、仮説をどんどん立てていかないと勝てないよねというような話に少し触れています。

どうやったら筋の良い仮説を持てるのか、また、スピードの高め方といったところを前田さんのエピソードとともにお伺いできたらなと思っています。

前田:仮説構築において僕が大事だと思っていることは2つあるんですが、
その前に言いたいのは…「仮説」っていう日本語が良くないと思うんです。「仮説」って言われると、作るのに1ヶ月ぐらいかかりそうな文字面していません?(笑)

ーー伊藤:確かに(笑)、ちょっと大げさな感じがしますよね。

前田:そうですね。「仮説」という言葉の響きが仰々しい、もっとやわらかい言葉だったらいいですよね。

何を言いたいかというと、「仮説」を持ってきて、と言うと、よく方「机の上で一ヶ月考えました!」みたいなものをぶつけてもらうことがあります。が、しかし、、1ヶ月も仮説構築に時間をかけていたら勝率は低いと思います。

感覚値では、3秒ぐらい。本当に、実際大体3秒で頭に思い浮かんだことを一度言語化してみる。

つまり、大事な点の1つ目は「仮説なんて3秒で立てなさい」ということです。筋のいい仮説を早く持つためには、何よりもまず仮説立ての絶対的な総量が重要です。

 

では、3秒で筋の良い仮説を立てられる、というのは果たしてどんな状態か、当たり前にそれができるようになるためには何が必要か。これが2番目のポイントですが、「とにかく異常なほどにインプットする」ということです。

今自分たちが解きたい問題は、他の誰がどういう方法で解決しているだろうかとか、海外の人たちはどうやっているんだろうかとか。ネットで調べればたくさん出てきますし、今やChatGPTに質問すれば一瞬で答えを教えてくれますよね。もちろんある特定領域の本をまとめて複数冊読むのでも良いです。

自分に合う手法でいいのですが、要は、圧倒的にインプットできる環境を作ること。自分から取りにいくインプットもありますし、インバウンドで情報が集まってくるようにするのも大事なポイントかなと思います。

例えば、僕の場合はシンプルに、この領域で何か面白いことが起きたり興味深いニュースを目にしたらすぐに教えて欲しい」と信頼する会社のメンバー、自分よりその領域に詳しいメンバーにお願いしています。

また良質な仮説がやたらたくさん出るブレストがあった時に、それがなぜ起きたかと考えてみると、これまた単純に、「インプット量が多い人たちでブレストしているから」なんですよね。

つまりその領域のことをとてもよく知っている人たちでブレストしているので、変な車輪の再発明的な徒労議論もないですし、皆の共通知識の上で新たな仮説が生み出されているわけです。

まとめると、仮説はスピードとインプットが命で、最初は量から質を生み出していく。

その中でも仮説の質を初手から一定キープしたいという観点で、その領域のインプットをたくさんする。自分に情報が集まってくる仕組みを作ることが重要だと思います。

早く良い仮説が立てられる人はインプット量が多い、これは揺るがない条件なのかなと思います。

 

ーー伊藤:ありがとうございます。弁護士ドットコム株式会社の元榮さんの話がこの本のはじめの方にも出てくるんですけれども、彼は自分自身が物損事故に遭遇して弁護士が身近にいないので、すごく不便だなと感じて弁護士になろう最初に思ったらしいです。

前田:事故ってまさにそれこそ「痛み」ですね…!

ーー伊藤:弁護士になったあとに、引越しサイトを自分が引っ越しの際に使って「こんな風に弁護士を気軽に調べて相談できるといいな」と思いついて、弁護士ドットコムの事業を思い至ったそうです。

彼がすごいのは、思った次の日に「辞めます」と弁護士事務所に辞表を出しちゃったという話で(笑)。

前田:すごいスピードですね。

この事例の場合、重要なことは「引越し比較サイト」に関するインプットを彼がしていたこと。幅広く知識や知恵を会得していることが、事業アイデアに繋がっている。

あと引越し比較サイトを一度抽象化して、それを弁護士に転用していること。

引越し比較サイトってそもそもなぜ必要でどんな風に人の役に立っているんだっけ、という形で具体を抽象化すること。こういう思考を日々のルールにして自分の中に抽象化した事例をストックしておくと、仮説の生まれるスピードが上がります。

インプットするときに単に情報収集するだけでなく、うまくいっている理由について抽象度を上げて理解することが重要だと思います。そうすると違う具体の問題を解きたい時に、手持ちの抽象カードの中からヒントを得られる状況になるので。

普通は引っ越ししたときに「引越し比較サイト便利だな」で99%の人が終わるはず。この思考があるか無いかで、仮説が生まれるかどうかが変わります。

ーー伊藤:そういうのを日々できるとアウトプットの質の違いに繋がっていくのでしょうか。

前田:そうだと思います。起業家はとにかく具体と抽象の行き来が多い生き物なのかなと。

つまり2軸ですね。そもそもインプット量自体が多いこと。そしてインプットごとに、抽象化してストックしていること。

ではそれをどうやったら高速にできるの?と思うと思うんですけど、それをまさに『メモの魔力』という本に書きまして…

ーー伊藤:ぜひ皆さん読んでくださいね(笑)

前田:というオチにさせてください!

 

仮説検証のレイヤーごとの考え方

ーー伊藤:では、ここからは仮説を検証するというところについて話したいと思います。仮説を作ったはいいものの、実は思っていたのと違ったというようなことが事業においては起こります。

そこで自分のこだわりと、お客さんの声を素直に聞き入れるバランスがすごく大事だと思っています。逆にちょっと仮説が違ったなと思った時には仮説を捨てる判断というのも必要だと思うのですが、そのあたりをどうしていけばいいか教えていただけますか?

前田:これは、ゼロから全く新しいイノベーションを起こしたいパターンなのか、多少改善したいパターンなのか、によって、大きくスタンスが変わってきます。

例えば、今僕らが馬車に乗って移動している時代に生きているとします。そんな世界で、そうだな、例えば、この会場に来るまで馬車に乗ってきましたけど、ちょっと馬の調子が悪くて遅れました、みたいなことがあったとするじゃないですか。

僕がもし馬車屋さんだとしたら仮説検証をどのレイヤーでやるかというと、「馬の調子のボラティリティーを減らすために餌を変えてみよう」とか「出発前にこういう儀式をしてみよう」とか。馬の体調を一定に保つために何が必要か?これを考えていくのが仮説検証プロセスですよね。

でもここで重要なのが、「そもそも馬なんかやめない?」という仮説は出てこないわけです。

何が言いたいかというと、仮説検証の発想の怖いところは垂直思考型になりやすいこと。

ゼロから全く新しいイノベーションを起こすような、今までの前提をひっくり返すようなことをしたいのか、あるいは既存業務の延長線上で、今この仕組みの中で働いている人たちがより継続的に幸せに働けるような施策を打ちたいのかでは、アプローチ方法が全く違うのです。

SHOWROOMでいうと、前者の方です。

僕たちが解決したい痛みはシンプルで、エンタメ界のピラミッドがあったときに、トップ1%以外の、残りの99%の人たちがどうやったら輝けるか、食べていけるか、ということです。

この課題に対して、例えば、既存業務の延長線上での仮説でいうと、「こうやったらテレビに出られる」「こうやったらライブハウスに人が呼べる」だと思うんです。

そうではなく、我々はテレビやライブハウスを一旦脇に置いておいて、全く逆転の発想、つまり、家をライブハウスにしてしまう、家にいながらユーザーからのギフティングによってエンタメで生きていける世界にしませんか、と提案しています。

つまり、自分が立てようとしている仮説は既存の文脈を引き継ぐものなのか、むしろ既存の文脈を壊すものなのか、それによって仮説が変わってくるなと思っています。

起業家の場合には後者の仮説がとても重要です。ここからが最も言いたかったことですが、後者の場合は「市場に聞いても仕方がない」です。このバランスを取るのが大事です。

ガラケーの時代にもっといいガラケーを作りたいなら、たくさんユーザーヒアリングして、もっとガラケーを便利にしていけばいいですよね。ユーザーにヒアリングをしていくというのは、どちらかというと革命を起こさない前提。

一方、スマホを作りたいなら、革命を起こしたいなら、人の声はむしろ聞かない方がいい。惑わされるので。

ーー伊藤:大上段の、ユーザーからのギフティングで食べられる世界にする、という仮説は人に話を聞いて検証しない。もっと低いレイヤーの、どうやったら集客できるか、といった仮説は市場の声を聞き検証を繰り返していく、このバランスが大切だということですね。

前田:はい。なので僕は革命を起こしたい時は、山にこもると常々決めています(笑)。もう全く人の話は聞かない。そうでないとイノベーティブなプロダクトは作れません。

ギフティング事業を作ると言った時も、厳しいご意見や強い反論に囲まれました。

あの時に周囲に言われたを全て受けていたらSHOWROOMは絶対に作れていません。そういう意味で自分はある種戦略的に耳を塞いでいる時と、オープンにしている時の差分が激しいと思います。

 

誰かの痛みを取り除き、幸せにすることが仕事

ーー伊藤:そのバランスってどうやってとるんですか?素直に聞くってところともう絶対に譲らない、の塩梅が大変なんじゃないかなと思います。

前田:人で分けるというのもありますよね。よく聞く社員と、あまり聞かない社長とでバランスをとるなど。チームでバランスをとればいいんじゃないですかね。

ーー伊藤:なるほど。

前田:ユーザーすら想像もできないすごい景色、幸せな世界を作りたくて、僕はやっています。

起業家はさまざまな心配事や、むしろ憂鬱なことの方が多く、リスクも大きいです。それでも起業する理由は、誰も見たこともない、想像もできないものを作りたいだけなのです。

そんな感じでリーダーたる起業家にしか見えていない世界もあってほしいと思うので、あまり市場の声を聞きすぎなくてもいいのかなと思うのですが、とはいえサービスを立ち上げてからのフェーズでは結局ユーザーの言葉が重要なので、立ち上げ前か後かで違いますよね。

ーー伊藤:具体的にはフェーズごとにどうバランスを取ったのでしょうか。

前田:僕は原則、PMF(プロダクトマーケットフィット)したら聞く側に振れていきます。

サービスを作るところまではユーザーの声とは一定関係なく、こういう世界にしたいんだという自分のエゴで作る。

それがPMFするまでもがいて、PMFして1を100にする過程は、たくさんのユーザーインタビューなどを通じて市場の勘所を確認する作業を重要視する。

ただ、この1→100フェースにおいても、時にユーザーの声を聞かずに取り入れた仕組みがユーザーの幸せに刺さることもある。マーケ施策一つとってもプロダクトアウトかマーケットインか、この辺りはバランスが大切なのかなと思いますし、センスが問われるんだと思います。

ーー伊藤:さきほど出てきたカバーの谷郷社長の例で言うと、彼自身は先々のリスクまで予見して慎重に考えがちらしいんですよね。でもどうしたかというと、 創業の経営陣の中にすごくポジティブな人に入ってもらったのです。

彼自身は5年間で売上200億円企業を作れるなんてなかなかないのに、いつもあれがうまくいかないとか、これがリスクだとかを考えているんだそうです。でもそのポジティブな経営陣が「大丈夫だよ、なんとかなるよ」と声をかけるみたいな。

もし自分自身でちょっと怖いなと思うのであれば、すごくポジティブな人に仲間に入ってもらうとか、 そういったバランスが大事なのかなと思っています。

前田:大変面白いですね。チームで陰と陽を補い合う。

陰に寄ってしまう気持ちもわかります。リスクプロファイルをごく普通に考えたら確かに、起業がもたらすライフファクターにはネガティブなことも多いです。成功する確率は圧倒的に低いですし、多くの借金をするかもしれない。こんなことをわざわざやっている方って、そもそも多くの人とは感覚が違う、というのは前提にあるかもしれません。変わり者なのかもしれません。

でも、僕はそんな起業家の生き方が大好きです。犠牲があると知りながら、誰かの痛みをとる優しい人たちだからです。そして、そんな生き方はその人自身の人生の幸福度を高めるからです。

今日僕が一番伝えたかったメッセージは、「気づいていないだけで、みんな起業家である」ということです。

起業しようと思っていない人もこの会場にはいらっしゃると思いますが

冒頭、僕は「痛みを取り除くことが事業」であり、その事業を作ることが起業だという話をしました。

別に起業家だけでなく、家事をするお母さん、家族のために会社で働くお父さんも、日々一生懸命、家族の痛みを取り除いているわけです。誰かの痛みを取り除くことで自分の幸福度が上がる、これをMAXまで突き詰めたものが起業だと思います。だから僕は起業という生き方が大好きなんです。

会社員の皆さんでも、自分の考えた企画というのは、誰かの悩みや不安や 苦しみを取り除いてあげているからこそ、そこに対価が生じ、 自分のお給料につながっている。

つまり自分の仕事が結果的に誰かを幸せにしていると実感できると、毎日の幸福度が変わってくる。それによって自分自身が辛い時も、頑張れる原動力になると思います。

シンプルに、事業で売上が立つ時は、 誰かの痛みが取り除かれて、誰かがそこに幸せを感じた時。チームでこの、誰かの幸せを作っていくなんて、最高です。

特に起業家でなくとも、自分も何らかの形でその一構成員になるという認識を持ってもらうだけで、 日々の輝きというか、朝起きて仕事をしようと思う時の感覚が変わってくると思います。ですから起業家の方は自分こそが誰かの痛みを取り除きたいと思ってほしいですし、そうでない人も自分と他のメンバーで手を取り合って誰かの課題を取り除いているんだと思って、楽しく働いてくれたら嬉しいなと思います。

本日はありがとうございました。

ーー伊藤:前田さん、皆さん、お忙しい中本当にありがとうございました。

 

>【イベントレポート:出版記念トーク】事業のタネを見つけるには? SHOWROOM 前田裕二社長(第1話)

 

著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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