”台湾発・ユニコーンAI企業” Appier(エイピア) チハン・ユーCEOが語る、 起業家の3素養とは(第1話)

2012年に台湾で創業し、「AI x SaaS」のAI ネイティブ企業として東証プライム市場上場も果たした Appier(エイピア)。「誰もが簡単に使えるAIの普及と実用化」を推進し、企業のセールス・マーケティング活動を支援する事業を、世界17拠点でグローバルに展開している。同社代表取締役CEOのチハン・ユーが語る、起業家の素養や、グローバルでの事業成長の要諦とは。DIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤 紀行が聞いた。(全4話)

9度ピボットを乗り越えた「粘り強さ(Persistence)」

ーーチハンさんが考える、起業家として重要な素養を3つ挙げるとすると何でしょうか。

まずは「粘り強さ」が最も重要です。

起業家の旅路は非常に長く、その道のりには諦めたくなるような多くの課題・困難が待ち受けています。

「粘り強さ」こそがこれらを乗り越える素養であり、起業家が日々成長し続けるためにおいても重要な素養だと思います。

創業からIPOしてもなお変わらず、とにかく粘り強く、常に前進し続けること。毎日0.1%でも成長できれば、その複合効果はいずれ巨大になる。この心構えこそが大切だと信じて、日々過ごしています。

チハン・ユー/1979年生まれ
米国のスタンフォード大学のAI 研究室で修士号を取得、ハーバード大学で人工知能(AI)の博士号を取得。2012年にAppierの共同創業者兼最高経営責任者に就任。2019年2月よりAppier Group 株式会社の代表取締役CEO

 

2つ目は「オープンマインド」であること。

会社というものは時間が経つにつれて成長し、それに伴って起業家に求められる役割も変化して行きます。

「オープンマインド」であることで、常に新しいアイディアを取り入れ、優秀な人材を受け入れ、ひいては自分自身を成長させ続けることができます。また、自分たちが立脚する市場を超えて、新しい市場を拓くこともできるでしょう。

懐の深さとアプローチできる市場規模は比例すると言っても過言ではありません。

最後の3つめは「明確な優先順位」です。

スタートアップには時間も、お金も、人手もありません。常に限られたリソースの中で目標を達成するためには、明確な優先順位を持ち、最も重要なことに集中することが必要です。

「粘り強さ」「オープンマインド」「明確な優先順位」

この3つが起業家にとって重要な素養だと信じています。

 

ーー「粘り強さ」が最も重要と考えるに至った原体験があればお聞かせください。

私たちは2012年に会社を設立しましたが、設立前の活動も含めると2010年頃から共同創業者と共に事業を始めていました。

今ほど「AI」というものが大きなカテゴリではなく、それがビジネスとして成立するとも考えられていなかった時代でしたが、私たちは「AIの普及と実用化」を夢見て創業したわけです。

当然ですが、AIがどのようにビジネスに活用できるかは当時誰も想像ができておらず、理解している顧客もいませんでした。私たちも事業性に関して9回ピボットを繰り返し、キャッシュが残り2ヶ月分しか無い状況にまで追い込まれました。

そんな中でも粘り強く自分を鼓舞し、自前のアイデアと実行に1分単位で全ての力を集中させ、誕生したのが現在の事業のプロダクトでした。

非常に困難な道のりでしたが、「9度のピボット」をしたことは決して失敗ではありません。間違いを学びと捉え、次に進むためのエネルギーをもらうチャンスとする「粘り強さ」があったからこそ今があります。

 

喜んで他人の意見を受け入れる

ーーチハンさんの「オープンマインド」という言葉は「柔軟性」に近い表現でしょうか?

オープンマインドとは、他の人の意見を受け入れることが大好きであることです。

私はCEOのマインドセットとして「スタッフが輝けるプラットフォームを作る」意識が大切だと思っています。

事業の成功だけを考えているわけではありません。人材が輝けるプラットフォームを構築しようとしているからこそ、常に多くの才能を受け入れ、自分とは異なる意見を取り入れ、時には慣れ親しんだ市場とは異なる市場を受け入れたりすることができます。

 

ーー「オープンマインド」と、時には自分の考えに執着すること、この二つのバランスはいかがお考えですか?

私たちの考え方は「ベストなアイディアが常に勝つ」というシンプルなもの。

ベストなアイディアを決めるまではオープンマインドであり、どれがベストなのかみんなで話し合います。そしてこれがベストだと決めたあとは、貫くことも必要です。

一方で、スタートアップは常に時間がありませんので、どのアイディアが正しいかを十全に議論し、悩んでいる時間はありません。

まずは合意したことに挑戦してみて、岐路が来たら他の意見も聞き入れながら考え直す。

「ベストなアイディアが常に勝つ」と信じているからこそ、結果が出るまではオープンマインドであり続けられるのです。

 

ーー科学者出身のチハンさんの役割も、大きく変化している印象です。

目標を達成するためなら、新しいスキルを学ぶことや、周りの人が持つノウハウを取り入れて自分の役割を変化させることは手段にすぎません。私も生まれた時から科学者だったわけじゃないです。

起業家は常に会社の成長速度を超えて、成長し続けなければなりません。

だからこそ起業家は常に学ぶ意欲を持つべきですし、そのために自分と異なる考え、人を尊重していく「オープンマインド」が大切なのではないでしょうか。

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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