#起業家の素養
先達に学ぶ -第15回 ユーザベース・新野さんからの学び-
■「起業ノウハウ」について
皆様、こんにちは。
国内ベンチャー投資ファンド・DIMENSION (ディメンション)の代表取締役社長の宮宗(みやそう) と申します。私共の起業家向けメディアDIMENSION NOTE(ディメンション ノート)に目を通して頂き、ありがとうございます。
私自身2002年からスタートアップへの出資・支援を行うようになり、累計18社の上場/Exitに携わってきました。またこれまで様々な起業家や経営者と仕事をしてきましたが、経営はある事を行えば必ず成果が出るという単純なものではありません。一方、自分よりステージが上で上手く経営推進・事業拡大されている企業や起業家・経営者の方から「学び」、その内容の「具現化」を継続していれば、成果出しの確度は高められると、多くの起業家を見てきた専門家として確信しています。
2021年4月から、私共DIMENSIONメンバーが定期配信を始めた「起業ノウハウ」では、
・起業
・増資・融資
・組織作り
・経営推進・事業拡大
・上場
を中心に、取り上げていきます。
今回は、経済情報サービスSPEEDA、ソーシャル経済メディアNewsPicksなどを手がけるユーザベース社・共同創業者の新野さんからの学び。
ユーザベース社は、創業から8年半後の2016年10月に東証マザーズに上場。翌年、本DIMENSION NOTEの取材で初めて新野さんにお会いしました。2017年に私がやり取りした起業家・経営者の中で新野さんは群を抜いてNo1だと感じた方で、その取材内容は6年経った今も鮮明に覚えています。
【出典:DIMENSION NOTE】
2018年10月、残念ながら発病された疾患の療養のため新野さんは取締役を退任されたのですが、3名での共同創業がうまく機能し、商社・金融・コンサルティング会社出身にもかかわらずデータベースやメディアといった別領域のビジネスを立ち上げ成功されたのは、新野さんの存在が大きかったように思っています。
今回は、新野さんからの学びを2つご紹介します。
■リーダーとしての卓越した伝達力・言語化力
2017年に新野さんに取材した際、起業や経営の本質を的確にとらえ、それらを構造化・言語化し実行されていて、しかも人柄も柔らかいTopがいることに本当に驚かされました。
ご自身が意識しながらBiz経験を積み、努力し高められた部分もあるかと思うのですが、天性のモノも大きいと感じました。
特に構造化・言語化に関しては、わかりやすい例え話を交えながら、相手の頭に入る言葉にして伝える力の強さが突出していると思いました。
例えば、起業家にとって大切な素養として、新野さんは「困難な時こそ団結できる人と働くこと。」を挙げられていたのですが、その理由と表現が素晴らしく聞いていて「本当にその通りだ。」と感銘を受けました。
- “(「困難な時こそ団結できる人と働くこと」が起業家にとって大切な素養なのは)なぜかというと、事業というのはどうしても辛い時があって、それでもなおやり遂げようという力はチームからしか出てこないからです。”
- “事業が伸びているうちは、才能というのは買えるものだと思っています。みんな勝ち馬に乗りたいので、「僕も入れてくれ」と次々言ってくる。しかし逆に言うと、そういう人は事業がダイナズムを失ったタイミングで去っていきます。”
- “一方で、お金で買うことのできない人というのは、自分の人生と事業への想いを重ねてくれる人、必ずしもお金やダイナミズムだけでは動かない情熱を持っている人です。”
- “私はこういう人こそ、事業の真のオーナーだと思っています。株式会社を動かすエンジンとは執念や情熱で、良い時も悪い時も情熱を持ち続けていられるようなメンバーは、最も希少性の高い経営リソースです。そういう人達とチームを作ることが起業家にとって重要なことです。”
上記のような団結できる方、困った時に自分事と捉えて働いてくれる人を入社前に見極めるにはどうすればいいのか追加で質問したのですが、その答え方も新野さんらしい表現で秀逸でした。
- “(団結できる、困った時に自分事と捉えて働いてくれる)部分というのは、どうやって今までの自分の人生を決めてきたかに出てくると思うんです。ですから、過去の意思決定の過程から「何がこの人のドライバーになっているのか」を見ることが重要なのではないかと思います。”
- “見るポイントとしては、「向上心が強い」のに、「現在の環境への感謝を忘れない」タイプの人は困難な時にも逃げない可能性が高い。”
- “逆に「他人の畑」が青く見えすぎて、「自分の畑」がつまらないものに実態以上にみえてしまうタイプは、事業つくりに必要な集中力と持続力が途切れがちになってしまう。”
- “面接だけではなかなか見極めづらいんですが、一緒に働くと感じるものがあります。私はその「感じ方」を大事にしています。その「感じ方」を言語化するとしたら、「戦いに絶対行かなきゃいけないんだったら、一緒に行きたい相手」を選ぶということ。「同じ部隊で、戦いに身を投じなきゃいけないんだったら、この人とやりたい」と思える相手かどうか。”
こうした表現で起業・経営のポイントを伝えられる起業家にお会いしたのは新野さんが初めてで、質疑しながら感動している自分がいました。ゆったりとしたトーンで例も交えながら答えられる新野さんに触れて、「ああ、この方は起業や経営の本質を押さえられていて、しかも自身の中で構造化されている。」と強く認識したのを今も覚えています。
※左から、ユーザベース共同創業者の稲垣さん、梅田さん、新野さん(2018年10月)
【出所:ユーザベース社・HP】
■湧き上がる情熱に素直に、一度の人生を生きてほしい。
取材の最後に「起業を目指す人たちへのメッセージ」を質問したのですが、その時の新野さんの回答は意外なものでした。
多くのBizパーソンが使わない表現で最初肩透かしをくらったのですが、その理由も教えてもらうと「まさに本質的で、起業家にとって大切な事だ。」としみじみ思うようになりました。それ以来、若手起業家からアドバイスを求められるたびに、新野さんの取材記事のURLも伝えながら、私自身も同じことを伝えるようになりました。
- “(起業を目指す人たちへのメッセージは?という質問に対し)一番難しい質問ですね(笑)。一言、言うとするなら「好きにやってほしい」ということでしょうか。”
- “「自分がいいと思うことを真っ直ぐやってもらいたい」という意味ですね。自分の思うがままに生きていってほしい、というか。”
- “最初は、単に自己愛の強さからでも「幸せになりたい」という気持ちが生まれ、それを実現するために「一回切りのどうあるべきか」を一心に考える。”
- “自分の情熱を持続させているということは最も希少性のある価値で、その執念の大きさにアイデアやリソースがついてくるだけです。成功するか否かはマーケットが決めてくれるんです。”
- “ですから、「どこまで成功するか」をいちいち考えたり批判を恐れたりせず、自分の好きなことを愚直に追いかけていってほしいというのが私のメッセージです。”
是非、起業を目指す方も、起業された方も、新野さんがおっしゃるように「好きにやってほしい」と強く思います。
ユーザベース新野さんの意識や考え方についてさらに知りたい方は、2017年に新野さんを取材したDIMENSION NOTEの記事も参照いただければと思います。
また起業ノウハウ「先達に学ぶ」第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回、第7回、第8回、第9回、第10回、第11回、第12回、第13回、第14回もご参考にしてみてください。
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